古きよき時代のハッチバックを振り返る
5ドアというと、昔と今とでは少々イメージが違う。今は、たとえばアウディあたりに端を発した、なめらかなシルエットを持ったファストバックの4ドアクーペが分類でいえば5ドアだ。昔の5ドアもじつは成り立ちは同じだ。つまり実用的な4ドアセダンをベースにし、リヤゲートの傾斜を強めて、セダンよりもスタイリッシュ方向に仕立てるのがコンセプトだったからだ。だがスタイリッシュといっても、あくまで実直さが身上で、実用性(または使い勝手のよさ)をしっかりと確保した、いわばセダンとステーションワゴンの中間に位置づけられるクルマだった。もともとは欧州車ではポピュラーな“車型”で、日本の5ドアはその様式を採り入れたものでもあった。
で、今回、編集部と打ち合わせをしてみると、国産5ドア車が思いのほか多いことをあらためて実感した。この実感には、現実問題として5ドア車は、どれもメジャーな存在にはならなかった……というのがある。肯定的に「スタイリッシュで実用的だよね」と捉えるか、「なんか中途半端だよね」と捉えるか、ユーザーのなかでも両方の声があったと思う。なので、大きなムーブメントにはなりにくかったのかもしれない。
トヨタ・コロナ
そうしたなかであらためて振り返ってみると、この5ドアにもっとも“熱心”だったのがコロナだ。1965年、3代目“アローライン”の世代で登場したモデルは国産車初の5ドアだったが、以降、1978年の6代目で10年ぶりに“リフトバック(LB)”として復活。1983年に登場した初のFFモデル(8代目)にも用意されたのに続き、9代目(1987年)、10代目(1992年)では“SF”とネーミングされて5ドアが設定された。
初代が現役だったころ、筆者は小学生だった。通学路の途中に初代の白い5ドアがいつも停っていたのをしっかりと憶えているが、確かに、ただの4ドアセダンとは違う先進的な雰囲気があったように思う。
トヨタ・カローラ/スプリンター
同じトヨタではカローラ、スプリンターに5ドアがあった。最初は1983年に郷ひろみの「素敵に〜♪」のTV-CMで登場した初代FF(5代目)カローラ(とスプリンター)に、“セダン5ドア”として登場したのが最初。少し背の高い垢抜けしたスタイリングが魅力的なモデルだった。続く6代目ではカローラには5ドアの設定がなく、代わりにスプリンター(1987年)に5ドアモデルのシエロが登場した。リヤクオーターまでガラスを回した、個性的なスタイルが印象的なモデルだった。
トヨタ車ではもう1車種、1982年登場の初代FFビスタにも5ドアを設定。全高が4ドアセダンより25mm低められながらも、トヨタ車初のミドルクラスのFF車らしく、室内空間の広さが特徴。カタログには“5ドアを単なるセダンのアレンジ編と考えていなかっただろうか”などと、自信に満ちたコピーが書かれている。
日産スタンザ
日産車では、スタンザ、バイオレット・リベルタ、そしてスカイラインやプリメーラなど。スタンザは19 77年登場のバイオレットの兄弟車で、まだFRだった時代のモデルだ。5ドアはサニー・カリフォルニアの向こうを張って“スタンザ・リゾート”の車名で、カタログには“4ドアの居住性とクーペのラゲッジルームを共有した多用途車”とある。
バイオレット・リベルタ
バイオレット・リベルタは1981年に登場したFFモデルで、1385mmの当時としてはクッキリと背の高いボディに、ハッチゲートからアクセス可能な使いやすいラゲッジスペースを持っていた。
日産スカイライン
スカイラインは1981年の6代目に設定。スカイライン初の5ドアで、エンジンは4気筒(1.8Lと2L)、6気筒(2LのNAとターボ)、さらに2.8Lディーゼルと幅広く用意された。
日産プリメーラ
プリメーラは初代のP10(1990年)、2代目のP11(1995年)の両方に設定され、いずれもイギリス・サンダーランド工場で生産されたクルマが輸入された。
ホンダ・クイント/コンチェルト
そのほかのメーカーでは、インテグラの前身(初代)のホンダ・クイント(1980年、写真は輸出仕様の“QUINTET”のもの)。そして、ローバーとの共同開発から生まれたコンチェルト(1988年)などがあった。
マツダ・カペラ/アテンザ
またマツダでは、アラン・ドロンのカペラ(4代目マイナーチェンジ時の1985年)。その後継車種だったアテンザ(2002年)に設定されたアテンザ・スポーツなど。
ダイハツ・アプローズ
それと本原稿をお預かりして、ふと思い出したのがダイハツ・アプローズ(1989年)。それまでのシャルマンがトヨタのカローラをベースとしていたのに対し、完全にダイハツのオリジナルで造られたクルマだ。一見すると3ボックスの4ドアノッチバックセダンにしか見えないが、“スーパーリッド”と呼ぶリヤゲートを備えていたのが特徴。リヤシートには最大80度のリクライニング機構を備え、同時に多彩なシートアレンジ(後席座面を起こしたフルフラットも可能だった)による使い勝手のよさも特徴だった。筆者所蔵(!)のカタログの発掘が間に合わなかったが、ほかにもまだ車種はある。いずれにしても、実用性とスタイリングの両方の魅力を兼備させた形というコダワリが、そもそもの5ドアの出発点だったというわけだ。
Text:島崎七生人
提供:Auto Messe Web
【関連リンク】
「セリカ」「カローラ」「コロナ」! 超貴重なカタログで振り返るトヨタの「ハードトップ車」
「技術の日産」を体現した名車「ブルーバード」! 消滅せざるを得なかった「苦しい事情」とは
「スカイライン」も採用していた! 誰もが憧れた「ハードトップ車」5選
隣のクルマが小さく見えま〜す! 憧れだった「カローラスプリンター」と「サニークーペ」
オーラがハンパない! 「セリカ」「フェアレディZ」「117」など70年代クーペが「神車」すぎる