まるでスーパーカーみたいな「ミッドシップターボ4WD」! 2代目「ホンダZ」は先見の明がありすぎた「名作」だった

1998年に登場した3ドアハイトワゴンのホンダZ。エンジンをフロア下に収納したアンダーフロアミッドシップレイアウト(UM-4)の採用でキャビン&ラゲッジスペースを確保しながら理想的な前後重量配分50:50により走りにも貢献するパッケージを採用した

ミッドシップの意欲作! 時代を先取りし過ぎた「ホンダZ」

 1998年10月、ホンダがオデッセイやステップワゴンで注目を集めた、クリエイティブ・ムーバーシリーズに続く「Kムーバー」として、軽自動車の「Z」を発売した。

 1970年代に発売された初代Z(Z360)とは大きく異なる、アンダーミッドシップレイアウト(以下、UM-4)を採用する4WD仕様でATのみという設定だったが、ホンダが新ジャンルを創造したというだけあって、見どころ満載のモデルであった。

 

UM-4の採用でゆとりの室内空間と走りの楽しさを両立

 UM-4は、エンジンを横に倒して後席下部に搭載するほか、センターデフ式の4WDシステムやエンジンなどの走りの機能を床下に集約することで、前後重量配分50:50を実現。フロア上はキャビンとラゲッジスペースとに分けることができるので、当時格上のコンパクトカーに匹敵する室内空間を確保した。

ホンダZのアンダーフロアミッドシップレイアウト

 その広さは特筆もので、ゴルフバッグが横に積める小型車並の開口部や、後席を畳めば24インチの自転車を2台積めるほど。現在では驚かないかもしれないが、当時は先見の明があったといえる。

ホンダZのシートレイアウトとラゲッジ容量

 
 さらにエンジンが前方にないために、フロント部分はすべてクラッシャブルゾーン(前面衝突時に壊れて衝撃を吸収する部分)とした構造は、高い衝突安全性に寄与した。リヤも両サイドに高剛性フレームを用いて、後面衝突50km/hに対応。ホンダの安全技術が結集されていた。

ホンダZリヤスタイル

 

ホンダのKカー初のターボエンジン搭載車

 搭載するエンジンは、E07Z型直列3気筒SOHCハイパー12バルブ(1気筒あたり4バルブ)で、NAが最高出力52ps/7000rpm、最大トルク6.1kg-m/3700rpm。タービンの軸受けにセラミック・ボールベアリングとアルマイトコーティング・ピストンを採用したターボが64ps/6000rpm、9.5kg-m/3700rpmを発揮した。

E07Z型直3 SOHCターボエンジン

 
 じつはホンダの軽自動車にターボエンジンが搭載されたのはこれが初めてで、ヘリカルLSDも設定されていたことから「MT仕様があれば……」「5ドアがあれば……」などと、3ドアの4速ATのみという設定を嘆く声も多かった。

ホンダZリヤスタイル

 
 また、サスペンションはフロントがストラット式、リヤがド・ディオン(5リンク)式で、175/80R15サイズのタイヤを履きながらも、最小回転半径4.6mと優れた取り回し性を確保。低重心で走りが楽しくて、室内は広く、安全性も高い。スズキ・ジムニーやダイハツ・テリオスキッド、三菱パジェロミニは本格RV、もしくはCCV(クロスカントリービークル)と呼べるモデルだとすると、ホンダZは軽初めてのSUVと言ってもいいだろう。

ホンダZのシャーシ&ドライブトレーン
 

 

チューニングすればもっとファンなクルマになったかも!?

 当時の記憶をたどると、走らせた第一印象はフロア剛性の高さである。ホンダは古くから(おそらく80年代)、エンジンを横倒しして低重心のミッドシップを開発していると噂されていたが、このZでようやく市販化に成功。当時の軽としては背が高い部類に入るにも関わらず、優れたボディ剛性と重量配分のおかげだろう。

ホンダZのインテリア

 
 高速道路でも非常に安定していたし、峠道でも怖さを感じずに気持ちよくドライブを楽しむことができた。いち早く電動パワーステアリングを採用していたが、こちらに対しての記憶は薄いので、あまり気になってはいないのだろう。記憶は美化されるというが、当時として軽自動車とは思えないほどの走りを実現していたことは間違いない。趣味車や、家族向けのセカンドカーとしてはぴったりだったといえる。ミッドシップ4WDのマシンなんて、まるでスーパーカーではないか!

 もちろんもっとパワーがあれば、と思う場面もあったからだと思うが「これは、チューニングすればかなりイケるのでは?」と感じていた。

 昔のことながら鮮明に覚えているのは、当時真剣に購入を検討したからだ。当時の上司にチューニングについて相談すると「構造上かなり金がかかるよ」とまで言われたことまで覚えている。欲しかったのは、決してZZトップ(北米のロックバンド)がCMを担当していたためではない。MT車があれば、無理をしてでも購入していたに違いない。それだけクルマとして優れていたと思っている。5速MTモデルがあったなら、後世に残る名車になったかもしれない。

ホンダZの前後シート
 
 これほど優れたクルマながら2002年に一代限り(初代とは別物と考えると)で販売終了となってしまったのは、やはり3ドアATのみの仕様、そして価格が大きな影響を与えたからだろう。

 新規開発が詰め込まれたオールニューのZの価格はNAが114.8万円、ターボが128.8万円。現在の軽自動車では決して高くはないが、当時としては高額の部類に入る価格設定だった。

 ちなみに同時期に同じくKムーバーとして発売されたライフは、87.8~122.9万円。フィットの前のコンパクトカーであるロゴが、1.3Lながら83.0~142.8万円。まだ軽自動車には安さが求められていた時代だっただけに、少し割高であることが販売の足枷になったのかもしれない。

 

望み薄だけどUM-4コンセプトの軽EVを求む!

 ホンダZはUM-4が生み出す広い室内と荷室、低重心と前後重量バランスによる優れた走行安定性が魅力。SUVが大人気の現在発売されえていれば、軽のSUVとして人気を集めたに違いない。スライドドアが無理でも5ドア仕様で発売されていればと悔やむのだが、時代に対してやはり登場が早過ぎたのかもしれない。

ホンダe
 
 あえて同じクルマとして捉えるなら、初代から2代目までに24年の年月が経過してしまったが、願望を込めて言わせていただければ、3代目はエンジン搭載床下部分にバッテリーを敷き詰めた、Honda eと同じEVとして復活してくれると「面白いのでは?」と思わず妄想してしまうのだが……。

■ホンダZ(ターボ)
〇全長×全幅×全高:3395mm×1427mm×1675mm
〇ホイールベース :2360mm
〇トレッド 前/後:1280mm/1290mm
〇車両重量:970kg
〇乗車定員:4名
〇最小回転半径:4.6m
〇室内長×室内幅×室内高=1665mm×1220mm×1135mm
〇エンジン:直列3気筒縦置きSOHCターボ
〇総排気量:656cc
〇最高出力:64ps/6000rpm
〇最大トルク:9.5㎏-m/3700rpm
〇タイヤサイズ:175/80R15 
〇ブレーキ 前/後:ディスク/LT油圧式
〇サスペンション 前/後 ストラット式/ド・ディオン式

Text:佐藤幹郎
提供:Auto Messe Web

【関連リンク】
まさに「走るラブホ」だった「S-MX」! メーカー自ら「恋愛仕様」と謳う「究極の車中泊カー」だった
「水中メガネ」の愛称でお馴染み! ホンダらしさ全開だった軽スペシャリティ「Z」
激レアな「360cc軽自動車」が大集合で本気レース! 「サブロクミート」がオヤジには胸熱すぎた
アメ車感バリバリの「大きいミニバン」! オデッセイの親玉「ラグレイト」が売れなかった本当の理由
50年前の大戦争! ホンダN360が火を付けた「360cc軽自動車」の馬力争いが猛烈だった
 
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

注目の連載

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『オッペンハイマー』を見る前に知ってほしい6つのこと。2つの用語、時系列、モノクロシーンの意味は?

  • どうする学校?どうなの保護者?

    なぜPTAで子どもの保険を扱うのか? 2024春、東京都Pが“別組織”で保険事業を始める理由

  • AIに負けない子の育て方

    2024年の中学入試は「弱気受験」だったというが…受験者増の人気校に見る、中受親の変化

  • アラサーが考える恋愛とお金

    仕事×子育てを両立できるのは「ごく一部の恵まれている女性」か。女性の社会進出という“風潮”が苦しい