さよならエヴァンゲリオン。かつて「シンジ君」だった僕たちの25年目の卒業

現在公開中の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が、初日から3週間で興行収入60億円という大ヒットに。最初のTV放送から25年も経って公開された映画が、なぜここまで多くの人を惹きつけるのか。エヴァを追いかけてきたファンの1人として振り返る。

現在公開中の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以降シン・エヴァ)が、初日から3週間で観客動員396万人・興行収入60億円を記録。大きな話題になっています。
 

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(公式YouTube予告編より)


最初のTV放送から25年も経って公開された映画が、なぜここまで多くの人を惹きつけるのか。エヴァを追いかけてきたファンの1人として振り返ってみたいと思います。

※以降は映画本編のネタバレがあります。未見の方はご注意ください。
 

所信表明から14年。世界中が待ち続けた「3度目の終劇」

庵野監督による新劇場版の「所信表明」が発表されたのが2007年。当初は4部作を2年で公開する予定だったというのが驚きですね……。たび重なる公開延期で、実に14年越しの完結編となりました。

所信表明と同じ2007年に公開された第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』

エヴァが終わるのは、実は今回で3度目。1度目は、1996年放送のTVアニメシリーズの最終回。2度目は、その最終回を作りかえた1997年公開の旧劇場版『Air/まごころを、君に』。そして3度目が、新劇場版の完結編である今回のシン・エヴァです。

1996年に最終回を迎えたTVシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』

エヴァは過去2度のラストで、我々ファンに衝撃を与えてきました。リメイクではなくリビルド、再構築であると宣言されて始まった新劇場版が、果たしてどんなラストを迎えるのか。全世界のファンが固唾を飲んで見守ってきた14年間といえるでしょう。

……いや14年て! 長いよ! リアル「Q」状態でもう「序」の内容忘れちゃってるよ!

そんな我々の声が届いたのかはわかりませんが、シン・エヴァの冒頭には「これまでのヱヴァンゲリヲン新劇場版」と称した前3作のダイジェストが。

映画館で観ると、公開当時の感動や衝撃が改めて思い出されて、胸が熱くなりました。
 

冒頭のダイジェストでよみがえる「カタルシスと絶望」

新劇場版を振り返る上で外せないのは「破のカタルシス」と「Qの絶望」でしょう。

2009年公開の第2作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』

2009年公開の第2作「破」で、綾波を救いたいという思いから初号機を覚醒させたシンジ。最強の拒絶タイプといわれた第10の使徒から力ずくで綾波を奪い返すシーンはシリーズ屈指の名場面です。

「気持ち悪い」から12年。ずっとくすぶってきたファンにとっては最高のカタルシスでした。

1997年公開の旧劇場版。TV版最終2話前までの総集編である『シト転生』(通称・春エヴァ。のちに再々編集して『EVANGELION:DEATH(TRUE)²』と改題)と、TV版最終2話を新しく作りかえた『Air/まごころを、君に』(通称・夏エヴァ)がある

「気持ち悪い」とは、大きな物議を醸した旧劇場版のラストシーン。人類がひとつになることで傷つけ合うことのない「人類補完計画」ではなく、傷つけ合うとしても他人の存在する世界を選んだシンジ。

しかし、目を覚ましたアスカの口から出た言葉は「気持ち悪い」。それを最後に映画は終わってしまいました。

……いや、気持ち悪いってなんだよ! 起き抜けに首絞めちゃったのは悪かったけども! これで終わりはないよ。ねぇアスカ。答えてよ。アスカー!

当時中学生だった自分は「気持ち悪いんだよオタクが。アニメなんて観てないで現実を見ろ」と言われたようで、打ちのめされたのを覚えています。

それから10年。納得のいくラストではなかったとはいえ、庵野監督のメッセージを受け入れて、現実と折り合いをつけて、大人になったのに……!

新劇場版の発表はまさに青天の霹靂でした。また気持ち悪いって言われたらどうしよう……。

12年ぶりの「破」で救われたシンジの活躍

「破」で初号機を覚醒させたシンジ(公式YouTube予告編より)

そんな不安を抱えて観に行った「破」でのシンジの活躍は、12年ぶりに救われたような気持ちになりました。そして極め付けは、カヲル君のセリフです。「今度こそ君だけは幸せにしてみせるよ」最高です。ありがとうカヲル君。もう十分救われたよ!

それから3年。カヲル君、元気にしてるかな?くらいの気持ちで観に行った続編「Q」には、地獄のような絶望が待っていました。

続編「Q」で待っていた絶望

2012年公開の第3作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

シンジが目覚めると、そこはなんと14年後の世界。自分が眠っている間に起きた「サードインパクト」で地球は壊滅状態に。

しかもそれはシンジが「破」のラストで初号機を覚醒させた「ニアサードインパクト」が元凶。仲間だったはずのクルーから浴びせられる拒絶の数々。

さらに助けたはずの綾波は存在せず、いるのは記憶のないそっくりさん「アヤナミレイ」だけでした。

シンジが元凶とされる「サードインパクト」で地球は壊滅状態に(公式YouTube予告編より)

絶望の中、やっと出会えた唯一の理解者・カヲル君に導かれて世界を元に戻そうとしたら、父・碇ゲンドウの策略により失敗。またしても自分のせいで「フォースインパクト」が発動。それを止めるためにカヲル君は目の前で爆死……。

フォースインパクトを止めるため目の前で弾け飛ぶカヲル君(公式YouTube予告編より)

もはや「気持ち悪い」どころじゃない、怒涛の鬱展開。「破」で感じたカタルシスが完全否定の上に、目が覚めたら周りは大人になっていたなんて。

「いつまでも子どもみたいにアニメなんて観てないで現実を見ろ」と言われたようで、ラストのシンジのような力ない足取りで映画館を後にしたのを覚えています。

アスカに手を引かれて力なく歩いていくシンジ(公式YouTube予告編より)

それから9年……長い! 9年は長いよ! 何度も諦めかけました。それでも「希望は残っているよ、どんな時にもね」というカヲル君の言葉だけを信じて。

シン・エヴァの冒頭、ダイジェストの最後にこのセリフが流れたときは感動しました。観に来たよ、カヲル君。君だけは、信じるって決めたから……!


>次ページ「田植えをするアヤナミレイ。震災ではなく復興を描いたエヴァ」

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