3ない運動って正しいの?埼玉県教育委員会に現状を聞いてみた

関東では唯一3ない運動が続いていた埼玉県が撤廃の方向で動き出した事がニュースで報じられました。正直筆者の年齢では3ない運動は身近なものではなく良いのか?悪いのか?と問われても正解がわかりません。埼玉教育委員会に色々とお話を聞いてきました。

埼玉県でも3ない運動見直しに向けて動き出した

埼玉県庁に取材に行ってきました
埼玉県庁に取材に行ってきました

埼玉県は関東圏の中で唯一、現在でも「3ない運動」が行われています。
 

3ない運動とは、「免許を取らせない」「買わせない」「運転させない」をスローガンに、高校生にバイクの利用を禁じる運動のこと。簡単に言ってしまえば精神的にも肉体的にも未成熟の高校生がバイクの乗ると、転倒などによって大怪我をしたり、命が失われてしまうかもしれないから、乗らないように指導しよう!というもの。
 

しかし、平成28年に埼玉県で設置された『高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会』は、3ない運動見直しを求める報告書を埼玉県教育委員会の教育長・小松弥生氏に提出しました。
 

同委員会の会長は稲垣具志氏で日本大学の助教を務めています。専門分野は交通工学で、数々の論文や書籍を出版しています。同委員会は稲垣氏を筆頭に学識経験者、教育関係者、PTA関係者、交通安全関係機関など18名によるもの。
 

バイクガイドとして様々な記事を書いているものの、今年38歳、生まれも育ちも神奈川県の筆者にとって3ない運動は身近なものではなく、バイクを買わないように教育機関から指導された記憶もありません。自治体によって指導方法に大きな差があったようです。
 

インターネットで「3ない運動」を調べてみると、色々な方がそれぞれ独自の見解を述べていますが、基本的には見直したほうが良いというスタンスの方が多いようです。しかし個人の主観が強いものが多く、正直に言って参考になりませんでした。3ない運動は見直した方がよいものかどうか? 筆者には正直判断がつきません。 
 

そこで埼玉県の教育委員会にご協力頂いて現状やこれからのことをうかがってきました。
 

3ない運動によって死傷者は激減!ならば見直さなくてよいのでは?

1980年に高校生のバイク事故死傷者は1557人。2016年には68人まで減少したそう。37年間高校生の命を守るために、埼玉県では3ない運動をおこなってきた。これだけ成果がでているのであれば、続けていけばよいのでは? 一番疑問に思っていたのがこの点でした。
 

埼玉県教育局県立学校部生徒指導課、生活指導・いじめ対策・非行防止担当の指導主事のお二人に聞いてみたところ、3ない運動見直しの検討に入った経緯を教えていただけました。
 

現在でも3ない運動は継続したほうが良いのでは? という声があり、検討委員会内でも同様の話は出ていたそうです。それなのに3ない運動見直しの検討に入った理由は主に次の3点だそうです。
 

  • 1:現在の社会性を踏まえると3ない運動は見直し、安全指導を強化したほうが良い
  • 2:そもそも法律では16歳以上で免許が取れることになっているわけだから、3ない運動は違憲ではないか?  という見方がある
  • 3:免許を隠れて取得して原付バイクに乗っている生徒が存在する
     

1の「社会性」という言葉には様々な含みがありますが、一番は1980年代に問題となっていた暴走族が激減したことなどが大きいのだとか。確かに筆者が高校生の頃は深夜に公道で騒音をまき散らしながら走行する暴走族は存在しました。しかし、現在では暴走族は激減、規模もかなり縮小したようです。また、選挙権を18歳に引き下げるなど若者の自立を促す現在の社会の流れも、3ない運動撤廃を検討する流れに繋がった要因の一つ。
 

次の2は、3ない運動を違憲とする考え方。確かに免許は16歳から取れるのに高校生には免許を取らせないという3ない運動の考え方は矛盾しています。しかし、バイク事故で子どもを亡くした親はどう思うでしょうか? やっぱりバイクは危ないものだから乗ってほしくないと思うはず。1980年には1557人も事故が起こっていたわけですから、死んでしまうぐらいならバイクには乗せないほうが良いと思うのも当然ではないでしょうか?
 

そして、今回3ない運動撤廃の検討に入った要因として決定打の一つとなったのが、3の、免許を隠れて取得して原付バイクを運転し、事故を起こす生徒が一定数いるということです。
 

実は、秩父など山間部では原付を使わないと通学が困難な生徒が存在し、免許の取得と原付による通学が許可されている生徒は193人存在しています。これらの生徒には、交通安全関係機関や県教育委員会が主催するマナーアップ講習や交通安全講習会が行われている事例があります。
 

その反面で、平成28年10月から平成29年9月までの間に、県教育委員会が把握した人数だけでも135名の生徒が無許可で運転免許を取得しており、なかには事故を起こしてしまった生徒もいたとのことでした。無許可で免許を取得している生徒には十分な交通安全教育ができていない。ならば3ない運動を見直し、免許を取得している生徒を把握して、充分に安全教育を受けさせたほうが良いのではないか? という考え方に繋がったそうです。

 

保護者は3ない運動に反対していたわけではない

取材させていただいたお二人は高校の教員を経て現在教育委員会に所属していらっしゃいます。お二人に、教員をされていた際に親御さんや生徒さんから「3ない運動なんて撤廃したほうが良いという声はありましたか?」とお聞きしました。
 

結果として、お二人が関わった生徒さんや親御さんから反対意見はないということでした。筆者も3歳と4歳の子どもを持つ親で、妻からは子どもをバイクに乗せるのはやめてほしいといわれています。親が運転するバイクに子どもが同乗していたとしても、転倒すれば怪我に繋がりますから、妻の気持ちを考えればこのような発言がでるのは当たり前ともいえます。違憲であろうがなかろうが、子どもが怪我をするリスクを負うぐらいであればバイクになんて乗せなくても良い、と考えるのは普通のことです。
 

検討委員会は3ない運動の精神を継承しつつ新しい安全計画の構築に入った

3ない運動の結果、埼玉県内の高校生のバイク事故による死亡者数は激減しました。一方で、135名の生徒が無許可で運転免許を取得して運転しているという事実があり、教育委員会の「135名にもしっかりと 安全教育をすることで事故を減らしたい」という考え方は充分にわかります。すでに3ない運動を撤廃した場合の、安全対策のスキームは検討段階に入っています。安全対策では、学校と県教育委員会が以下のような役割を担うことで検討がなされているようです。
 

◆学校の役割

  • 運転免許取得に関する届出の確認
  • 交通安全講習の受講指導
  • 非行防止に関する取り組みの推進

◆県教育委員会の役割

  • 交通安全講習実施体制の構築
  • 県民への周知
  • モニタリング組織の構築

3ない運動を見直しすれば免許を取得することも運転することも「悪いこと」ではなくなります。そのため、学校でも免許を取得する際に届出をだす制度を導入し、運転者を把握。県教育委員会は二輪車団体や教習所などの協力を仰ぎつつ、安全教育に力を入れていく体制を作っていく形です。
 

興味深いのは、モニタリング組織の構築にも力を入れていく方針を打ち出している点です。検討委員会の稲垣会長は、仮に3ない運動を見直したとしてもモニタリングし、事故が増えるようであれば3ない運動を復活させる可能性もあると公言しています。
 

個人的には3ない運動は撤廃しなくて良いのではと思うが……

筆者はバイクパーツメーカーで働いています。バイクに乗る人が増えれば私たちの懐は潤います。「3ない運動なんかあるからバイクが売れないんだ」という声も一定数ありますが、人の命には変えられません。
 

無許可で免許を取得していた135名に関しても、先生や親に反抗したい年頃なのでは? と思ってしまいます。私も決して高校時代優等生と呼べるような生活態度ではありませんでした。警察や先生は敵だと思っていたし、私のような考え方の生徒は一定数存在しました。
 

取材させて頂いた教育委員会のお二人に言わせれば「大人しい生徒が増えた」ということでしたが、一定数非行に走る生徒はいるはずだし、そういった生徒に安全教育をしたところで言うことを聞くかな? と思ってしまうのです。
 

今回3ない運動の見直しが検討され、新しい交通安全対策のスキームの構築に入ったのは、一定の効果を得ることができた3ない運動の先に進むためです。ほんの一部の生徒であっても事故を起こさせたくない、という教育者や保護者の思いからくるもの。
 

実は筆者の妻の親族に、結婚式を数日前に控えていながらバイク事故で亡くなった方がいます。そのため、妻の家族には私がバイク関係の仕事をしていることや通勤でバイクを使っていることを、大変心配されています。バイクの運転はとても楽しいですが、事故を起こせば重大な怪我に繋がるリスクがあるのも事実です。
 

3ない運動の見直しによって高校生の免許取得者が増えることは目に見えていますが、それによってこれからバイクを運転する高校生の事故が増えないことを祈ります。
 

私は今回、取材を通して埼玉県内の3ない運動の見直しについて、ニュースで報道されている内容だけでは知り得なかった、様々な背景を知りました。物事の本質を知りたいなら、現場に行って当事者達に話を聞いてみるしかないことを再認識しましたが、普段生活をしている我々にとって、これは中々難しいこと。
 

本記事を通して、「3ない運動」に関する新たな情報・視点を提供できていれば幸いです。私は今回「3ない運動は続けてもいいんじゃないか」と思いました。あなたはどう思いますか?

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