◼︎所沢市の迷走
所沢市の「育児退園」制度が大きな話題となっている。3歳未満の子どもを保育園に預ける母親が第2子以降を出産して育児休業を取得した場合、3歳未満の子どもに関しては原則退園させるというものだ。しかし3歳以上ならばそのまま在園が可能ということで、「出産する母親の負担を知らない人間の所業」「育休ならばヒマだろうという発想か」「要は最も保育需要が高く待機児童の多い、0〜2歳児の数合わせ」「しかも母親の育休明けに、子どもが元の園に戻れる保証がない」と、大きな批判を呼んだ。
すでに所沢市は、保育園児9人を6月末までに制度に基づいて退園させており、所沢市の保護者は市に退園差し止めを求めて集団行政訴訟を起こした。それに対して市側が「育休退園した子どもが元の園に戻れなかったら『一時預かり』で対応する」との緊急救済措置を発表し、その内容の是非やこれまでの経緯での市側の拙速、強引さをめぐり、今もヒートアップしている感もある。
産業カウンセラーの後藤和也氏は、ハフィントンポスト上で、
少なくとも「女性活用」「少子化対策」について国を挙げて取り組もうとしている矢先であることを考えれば、丁寧すぎるほどの事前説明をかなり入念に行う必要があった。
と、所沢市側の手続きの粗末さを指摘している。
また、ジャーナリストの猪熊弘子氏も、「保育園に入りたいって子どもが思っているかっていうときっとそうじゃない。子どもはお母さんと一緒にいたい」という藤本正人市長の発言に対し、
すでに正式に否定されている3歳児神話(子どもが3歳になるまでは母親が子育てに専念しなければ、成長に悪影響を及ぼすという考え方)を基にしているのであれば時代錯誤もはなはだしいし、父親の育児休暇取得を推進している国の政策とも逆行している。
と苦言を呈している。
手続きの拙速さに関しては、事前の反発を避けたかった市側の意図もあるだろう。おそらく市は待機児童数の「数字上の」解決を急いでいたと見るべきだが、露見した時に突っ込まれるリスクは十分承知していただろうか。その上でこの市長発言となると、所沢市の子育て領域に関する認識の甘さを批判されても仕方ないだろう。もっと言えば、この女性活躍推進時代の潮流だからこそ、子育て領域の政策は潮流に合わせた方向で押さえておくべきで、子育て層の影響力を過小評価してしまった政治センスの残念さが露呈したようにも思う。