■日本の「科学コミュニケーション」界隈は何をしていたのか
合意形成がどうなるかわかりませんが、もはや研究者間の議論に収まらず、社会全体の問題に発展していく可能性は大いにあります。

 

海外では先月の噂の段階から、大学のウェブサイトや一般のニュースサイトまで、多くのところでヒト受精卵へのゲノム編集について議論されてきました。ところが、日本ではほとんど取り上げられていませんでした。日本の大手メディアで詳しく報じたのは、産経新聞社のSankeiBizくらいでしょうか。

 

自由にゲノム編集 新技術へ倫理的警鐘 - SankeiBiz

 

あとは、NPO法人「オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)」はかなり詳しく書いていました。

 

3月25日:CRISPRの倫理問題(Scienceオンライン版報告他) - AASJホームページ

 

AASJの記事では「我が国ではアカデミア、マスメディア、政府もこの問題の重要性を認識していないのではないだろうか」と、(噂段階の時期ですが)日本で注目されていないことに危機感を募らせています。

 

確かに、噂段階で過剰反応するのも問題なのは理解できます。実際に発表された論文も、現時点でヒト受精卵へのゲノム編集は早すぎるアプローチで、その結果も惨憺たるものでした。ただ、こういった技術は精度が向上して、いずれは実用化レベルにまでなっていきます(それがCRISPR/Cas9の改良版か、まったく別の手法かはわかりませんが)。

 

技術が実用化レベルにまでなった場合、もはや科学の問題だけでなく、社会を巻き込んだ議論が必要になります。いわゆる「科学コミュニケーション」と呼ばれているものです。

 

残念ながら今回の噂段階で、日本の科学コミュニケーション界隈でゲノム編集を話題にしているところをほとんど見てきませんでした。この点が、僕が今回最も失望したことです。得意分野にもよりますが、「科学コミュニケーション」を自負する人たちは真剣に考えるべきではないでしょうか。