■ヒト受精卵のゲノム編集は効率が悪すぎる
論文の著者らは、「βサラセミア」というヘモグロビン異常による貧血を引き起こす遺伝子疾患に注目し、原因遺伝子であるβグロビン遺伝子の編集を目的としました。遺伝子疾患の治療を意識したものを思われます。

 

最初にヒト培養細胞で実験を行い、βグロビン遺伝子だけを編集できることを確認してから、ヒト受精卵のゲノム編集に取りかかりました。ただ、通常の受精卵を使うことは世間的な反発を受けるため「3前核受精卵」を使っています。3前核受精卵は、1個の卵子に精子が2個受精してしまったもので、心臓や神経細胞もできないまま、受精後5日には死んでしまいます。体外受精では5%程度の割合でできてしまうのですが、研究グループは体外受精クリニックからこれを譲り受け、ゲノム編集しました。絶対にヒトとして生まれない条件で実験した、という弁解が成り立ちそうです。

 

実験では86個の3前核受精卵にゲノム編集を試み、効果が現れる2日後に生存していたのは71個でした。このうち54個を調べたところ、ゲノム編集が確認できたのは28個、およそ半分だけでした。さらに、培養細胞では見られなかった、目的の遺伝子(ターゲット)以外の場所で予期せぬ変異が起きる副作用「オフ・ターゲット効果」も見られました。

 

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また、ゲノム編集2日後には細胞分裂が進んで、1個の受精卵は8個の細胞に分裂しています。細胞が1個である受精卵にゲノム編集を行えば、細胞分裂後の遺伝子はすべて改変済みとなっているはずです。ところが調べてみると、遺伝子が改変された細胞もあれば改変されてない細胞もあるなど、遺伝情報の異なる細胞が混ざった状態(モザイク)となっているものも見つかりました。モザイクでは着床前遺伝子検査も使えないため、うまくゲノム編集できた受精卵の選別も不可能です。

 

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以上のことから、現時点では受精卵のゲノム編集は効率が悪すぎて、医療現場で使えるレベルに到達していないと研究グループは述べています。そして、ゲノム編集のさらなる精度向上、原理解明が必要だと結論付けています。