先月「ヒトの受精卵の遺伝子を改変する実験が行われているらしい」という噂が飛び交いましたが、噂は事実でした。4月18日に論文が発表され、研究者間の議論が加速するだけでなく、社会を巻き込んだ論争になると見込まれます。

 

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問題となった論文

 

■メジャー学術誌に掲載拒否された論文を無名学術誌が掲載
3月に「ヒト受精卵の遺伝子改変実験をまとめた論文が査読(第三者の専門家による審査)に出回っているらしい」という噂が、海外のニュースサイトで報じられました。経緯は以下にまとめております。

 

海外で一大論争! ヒト生殖細胞や受精卵のゲノム編集研究はストップすべき?

 

「ゲノム編集」とは、従来の遺伝子組み換え技術よりも簡単に、安価で遺伝子を改変できる方法です。使うタンパク質などによって何種類か方法はありますが、最も使われているのが「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャス9)」という方法です。基礎研究では広く使われており、ヒトの培養細胞やiPS細胞でも実績があります。受精卵においても、マウスやサルなど、すでに多くの動植物で使用されています。ただ、ヒトの受精卵に対しては行われていませんでした。

 

そして、CRISPR/Cas9を使ったヒト受精卵のゲノム編集実験の論文は、4月18日に『Protein & Cell』誌に掲載されました。

 

Liang P et al., CRISPR/Cas9-mediated gene editing in human tripronuclear zygotes. Protein & Cell, 10.1007/s13238-015-0153-5

 

無名の学術誌だったせいか、掲載直後には話題になりませんでしたが、4月22日に『Nature』誌が報じたことで世界中に知れ渡りました。

 

Chinese scientists genetically modify human embryos - Nature
(中国の研究者がヒト受精卵の遺伝子を編集)

 

この論文は、以前に『Nature』誌と『Science』誌にも投稿されたのですが、両誌とも「倫理的な理由」で掲載拒否したようです。このときにリークされたのが、先月の噂の震源地だったと思われます。

 

ところで、本質とは関係ありませんが、『Protein & Cell』誌は「査読付きのオープンアクセスジャーナル」と名乗っているわりには、今回の論文の受理は3月30日、掲載決定は4月1日と、査読に2日しかかかっていません。普通の査読はどんなに早くても2週間はかかるので、今回の論文はまともに査読されなかった「エア査読」だと想像できます。無名誌が名前を売るために利用した可能性もあります。