万人にとっての「うまい肉」を定義するのは難しい。サシのびっしり入った霜降りなのか赤身肉なのか、好み次第でおいしさは人それぞれだからだ。しかし「まずい肉」なら「かたい」「ボソボソしている」という共通点がある。ということは、逆から見ると「一定のやわらかさ」「ジューシーさ」「舌ざわりの良さ」が「うまい肉」を判断する基準となる。この触感を実現することが「うまい肉」への近道となる。

 

ではそのために何が必要なのだろうか。まずは温度帯ごとの食肉の変化とその特徴を『いまさら聞けない肉の常識』(平野正男・鏡晃/食肉通信社)でおさらいしてみることに。

 

「食肉のタンパク質は30~35℃で凝固が始まり、40~50℃で温度上昇とともに急激にかたさが増し、保水性も急激に減少します。(中略)50~55℃でこの変化はいったん停止し、さらに加熱を続けると、筋原線維タンパク質は収縮、凝固し、筋漿タンパク質は55~65℃で豆腐状に凝固します」

 

さらに62~63℃あたりから、筋肉の繊維をたばねる膜であるコラーゲンが収縮する。つまりこのあたりの温度から肉汁が外部に絞り出されることになり、75℃まで温度を上げてしまうとほぼ肉汁は出し切られてしまう。つまり「一定のやわらかさ」「ジューシーさ」「舌触りのよさ」に欠かせない肉汁という水分をとどめておけるよう、内部温度を60度台にとどめておくのが「うまい肉」への近道なのだ。この法則はステーキ、焼肉、ポークチャップ、から揚げなど、すべての肉に共通していると言っていい。

 

といっても、加熱すれば一定の水分は必ず肉から出て行ってしまう。そこで調理に入る前に肉の「保水性」を高め、場合によっては「加水」をする。失われるだろう水分をあらかじめ加えておけば、「うまい肉」に必要な「一定のやわらかさ」「ジューシーさ」「舌触りのよさ」を確保できるというわけだ。