「日経ビジネスオンライン」の記事「自動車市場に価格破壊の足音:新興国向け超低価格車が震源」によると、1980年代、低価格で小型の日本車が米国市場を席巻し、大衆車の“価格破壊”が起きたように、現在は、大衆車市場でもう一段の低価格化が、世界規模で進行しています。新興国における自動車メーカーの戦略という面もありますが、先進国においても低価格の小型車がシェアを伸ばしていることに警鐘を鳴らすような内容になっています。

 

“「日本市場で軽乗用車の販売シェアが2012年に過去25年で最高を更新する見通しだ」と、11月2日付けの日本経済新聞が報じました。その比率は34~35%に達しそうだという。デフレが長期化する中、消費者の間で低価格志向が強まっており、ダイハツが「ミライース」を、ホンダが「NBOX」を発売するなど、各社が軽乗用車に力を入れる。”

 

結婚しない人が増えていますので、ファミリーカーの市場は縮小する傾向にあります。ファミリーカーのドライバーは夫であるのに、購入の決定権を妻の側が持つケースは少なくないと言われます。夫と妻(時には子どもたちも含めた複数のユーザー)が、お互いの好みをすりあわせて、1台を選ぶので、ボディカラーにはニュアンスのあるデリケートな色がラインアップされます。私事ですが、昨年、ある自動車メーカーの「妻」をターゲットにしたキャンペーンに起用していただけるというお話がありました。しかし、残念なことに、3.11後、「イベントでお客様からお申し込みいただいても、いつ納車できるかわからない。」という理由で、このキャンペーン自体が中止となりました。仕事がなくなってがっかりしましたが、ブランディングという観点から考えれば、自動車メーカーの判断は妥当だと思います。

 

私事はさておき、生活の足として選択されるケースも多いとはいえ、軽自動車はドライバーの好みで選べるので、はっきりとした主張の強い色もラインアップされています。ボディカラーにだけ着目しても、日本で販売される自動車には、創意工夫がうかがえます。自分で運転することのできる自動車は、時間やルート、同乗者を選べる自由がありますが、鉄道や飛行機は、時刻表に基づいて決められたルートを運行します。これが、自動車の魅力、強みですから、軽自動車であったとしても、ドライバーが自動車の魅力を体験することは、中長期的に見れば好ましいと言えるでしょう。

 

世界規模で進行しているのは、中間所得層の中でも低所得層に近い、「下位中間層」の世帯を対象とした50万円前後の超低価格車です。独フォルクスワーゲン(VW)は、新たなブランドを立ち上げ、「VW」などグループのほかのブランドとの差異化を図るようです。「高級感」や「ステータス」といった要素は、日本の自動車メーカーよりも欧州の自動車メーカーが優位ですから、格差が大きい新興国では、妥当な戦略かもしれません。

 

国内に目を向けると、トヨタの「“86 PIT HOUSE”10月1日 OPEN | 86SOCIETY」や、「SUBARU公式まとめ – NAVERまとめ」のように、自動車を運転することの楽しさを「シェア」するコミュニティもつくられています。「FORESTERLIVE | SUBARU – 世界五大陸。10万キロ。完全追跡。」も、そういった取り組みの延長線上にあるように思われます。ちなみに、私がSUBARUに好意的なのは、SUBARUのオフィシャルカーライフマガジン「Cartopia(カートピア)」で連載をさせていただいたことも一因ですが、SUBARUのユーザーのロイヤリティの高さは目を見張るものがあります。「遊び心」「勝者のイメージ」といった要素を加味することによって、熱狂的なファンを獲得している高級腕時計ブランド「ウブロ」のマーケティングに通じるものを感じます。

 

「シェア」と「コミュニティ」は、デザインやビジネスの領域で盛んに提唱されるキーワードです。「2011年度グッドデザイン大賞」を受賞した、「Honda | 東日本大震災でのインターナビによる取り組み「通行実績情報マップ」」も、会員のクルマから生成される走行データを「シェア」することによって、クルマ文化の可能性が可視化されたブランディングの優れた事例と言えるのではないでしょうか。

 

【参考】
成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。篠田哲生 / 著 幻冬舎