まず、はじめに断っておきますが、ボクは医者ではあるんですが、iPS細胞とか再生医療とかの専門家ではありません。再生医療はおろか、いま一般的な医療の範囲内で行なわれている移植医療などにも直接関係したことはありません。

 

まあ言ってみればしがない町医者なのでしかたないんですが、そういう夕張の町医者の視点から感じたiPS細胞にまつわる話題について、でございます。

”例の”騒動もふくめて・・・・・

 

まずは、京都大学・山中伸弥教授のノーベル医学・生理学賞受賞、本当におめでとうございます。神戸大学医学部出身とのことで、ここ卒業のノーベル賞受賞者って、もしかして初めてじゃないでしょうか?もし間違いだったらすみません。

もし間違いじゃなかったら、ボクも研修医時代からずっとお世話になってる大学なので、おめでたいことだと思います。山中先生ご自身が”愛されキャラ”(本当に失礼ですみません!!)として一般に認知されてることもあって、先生の歩まれてこられた人生にも注目が集まってます。

 

神戸大学整形外科での研修医時代、手技(しゅぎ。手術とかの手作業のこと)があまり上手でなく、「ジャマナカ」なんていう不名誉なあだ名を先輩指導医から頂いていたことがよく取りざたされてます。

山中先生より後のことになると思いますが、ボクも神戸大学老年内科(現在は組織改編されて別名称になってます)に所属して、大学病院で2年間、神戸市内の関連病院で2年間研修医やってました。

 

総合病院なので専門の内科だけでなく、他の科の先生に御指導を仰いだり、ディスカッションする機会も多くあります。

そうなると「○×科の先生ってこんなキャラの人多いよね~」みたいな話題に研修医同士でなってしまうんですが。

 

整形外科の先生って、もちろんほとんどの先生はジェントルなんですが、一部かなりお口が悪いセンセイもいらっしゃったような・・・・・・
そういえばボクも患者さんのマネージメントのことで尋常じゃない、お医者さんというよりアッチ関係の方の口調で(わかっとんのかい、ワレ~ってやつです)ほとんど脅かされたことがあるような・・・・・

山中先生もアレで苦しまれたのですね(泣)

 

指導医のみなさま、山中先生に関しては結果オーライみたいになってますが、研修医を鍛えようとする気持ちが強すぎて、エグいあだ名をつけたりして痛めつけるのもほどほどにしましょう。

ボクも後輩研修医と接するときには気をつけます。

 

改めて言いますが、どの科でもほとんどの指導医の先生は優しくて、人格者なんですよ。

いや~やっぱりこういう内輪ネタ書くと冷や汗出るわ~
もうやめとこう・・・・・・

 

ところで、iPS細胞ってそもそも何なの?って話ですが。
ウィキペディアのページはこちらです

人工多能性幹細胞、とか誘導多能性幹細胞、とか訳されてますね。

テレビなどでも多くのニュースや一般向け科学番組などで解説されてたので、ほとんどの方はもうご存知かと思います。

 

受け売りになってしまいますが、ボクの解釈をなるべく専門用語を使わず書いてみると、ほ乳類などの生物ははじめはたった1個の細胞からその生命をはじめるのですが、それが分裂・増殖を繰り返すうちに、いろんな種類の細胞に分かれていきます。
これを細胞の分化、と呼ぶのですが、そうやって分化することでそれぞれ固有のはたらきをもつ臓器がつくられて、複雑な生物の体ができてくるんですね。

 

分化された細胞はふつう分化する前のルーツである細胞、つまり幹細胞にもどることはありません。

 

これを人工的に幹細胞にもどして、さらに別の臓器の細胞、つまり別の種類の細胞にふたたび変身(分化)させて増殖していくのをコントロールできれば、たとえばある患者さんの皮膚から細胞をとって、幹細胞にもどしたうえで腎臓や脊髄、眼の網膜などをつくる細胞に分化・増殖を誘導できれば、その患者さんのダメージを受けた臓器の治療に役立つのではないか?
と、いうのがiPS細胞が注目される理由なんですね。

 

もしボクの解釈や説明が間違っていたら是非ご指摘してください。対処します。

 

でも実際、これを現実の治療に応用しようとすると、いくつものハードルがあることに気付きます。
たとえば、何らかの理由で働きが落ちてしまった心筋(心臓の筋肉。絶えず収縮・弛緩を繰り返し、血液のポンプとしての心臓の働きを保つ)の治療にこのiPS細胞を使うとします。

これ、もちろん”例の事件”を意識して言ってるんですよ・・・・・・

 

必要と思われる手順を、例によってなるべく専門用語を使わず箇条書きにしてみると、

 

①まず、患者さんの皮膚などから患者さん自身の細胞を入手します。

②その分化済みの細胞を、遺伝子的操作、もしくは生化学的手法で人工的に「先祖返り」させ、iPS細胞をつくりだす。

③そうやって出来た、言うなればその患者さん専用のiPS細胞をふたたび何らかの手法を用いて、試験管内など体外で心筋(心臓の筋肉)細胞へ分化させ、ある程度増殖もさせる。

④血管カテーテルや手術などの手段でその分化した細胞を心臓の必要な部位まで持って行く。

⑤その細胞が患者さんの心筋に、生きたままうまくくっ付いてくれる。

⑥くっ付いた細胞がその場でさらに増殖を続けてくれる。

⑦くっ付けた細胞が病気で損なわれた心筋の部分を補うように、”いい感じ”で増殖して、まともに働いてくれる。
しかもちょうどいいところでその増殖が止まってくれる。
増殖が無秩序に暴走して、患者さんにとって有害なできものみたいになってしまうことも起こらない。
つまり「癌化」したり、コブみたいなのが心臓内でふくらんで心臓の機能をかえってジャマしたりすることもない。

⑧それでしばらく様子をみて、一定期間大丈夫だったら、やった~!!治療成功!!となります。

 

・・・なるべく中学2年生ぐらいでもわかるように書いてみました。

たしか山中先生がノーベル賞をもらったのは上の②に対して、つまりヒトiPS細胞の作成に対してです。

 

つまり、実際に患者さんに臨床応用するまでに超えなければならないハードルはまだたくさんあって、いまはそのひとつめかふたつめのハードルをやっと越えたぐらいのところなのです。

とくに上の番号でいうと⑤と⑦がむずかしそうです。

 

このハードルを越えるたび、とくに特定臓器への治療の手法を確立させることができたなら、それに対してまたノーベル賞が贈られるかもしれません。

ところがっ!!

 

上に挙げた①~⑧のハードルに関して、「もう全部クリアーできたもん」と主張する人がいきなり現われました。

いまやプチ有名人になってしまった、元東京大学医学部附属病院特任研究員の森口 尚史(もりぐち ひさし)さんです。

 

森口さんがそれを発表し、それに”釣られた”読売新聞が一面で大々的に報道、そしてすぐに各方面から突っ込みの嵐となり、あっというまに真っ赤なウソだとバレちゃったのはみなさんも記憶にあたらしいところだと思います。

 

でも、落ち着いて考えると不思議ではあります。

上の①~⑧までのプロセスのなかで、日本をはじめ各国の研究機関が確実に到達しているのは②、③ぐらいまでです。

それが、東大所属とはいえ、いきなり一個人に近い状況にしか思えない人がその後にいくつも続く高いハードルをあっという間に超えてしまったというのですから。

 

しかも、森口さんがそれを発表したのはアメリカで開催された学会でのポスター発表というお話。

ポスター発表なら昔、ボクでもしたことあります。

ふつう学会で重要な発表というものは、プロジェクターなどで画像を駆使しながら舞台上において口頭で発表されます。
最近ならアップル社のiPadの発表プレゼンテーションで有名になった、あれですね。

 

一方でポスター発表って、学会が行なわれてる会場のホールなどに板を立てて、そこに自分の論文を書いた大きい紙、つまりポスターを貼り付けるというもの。
で、書いた人はその前に立って、誰かがそれを立ち読みして質問したりしたら答えたりするっていう感じです。

もちろんキラリと輝くポスター発表もあるんですが、学会においてはぶっちゃけ脇役です。

これだけセンセーショナルな発表が本当なら、ポスター発表なんてありえない、と経験者なら全員すぐ思うでしょう。

それをなんで読売新聞の記者さんはあやしいと思わなかったのか・・・・・・・

 

聞くところによると、本国・アメリカのメディアも森口さんの発表を知っていたそうですが、大きく取り上げることはなかったそうです。
欧米では科学系ニュースの専門家がいて、こういった研究発表のニュースではその信憑性を慎重に吟味するとか。
かつて、今回の森口さんみたいな人にさんざん振り回された過去があるのかもしれないですね・・・・・・

日本も読売以外のほとんどのメディアは懐疑的だったらしいですが。

科学系ジャーナリズムの発展とか整備って、一般のみなさんに正しく興味をもってもらうためにも必要なんだなって思った次第です。

 

森口さんのこれからのことを思うと他人事ながらちょっと暗くなってしまうんですが、いっそのことその想像力を正しく発揮して頂いて「近未来、人類はiPS細胞とともに人口子宮と人口胎盤、そして人口羊水の開発に成功、ガラス容器内でクローン人間を育てられるようになったのだ!!そして・・・・・」って感じのSF小説を書いてみるなんてどうでしょう?

もう不謹慎だからやめときます(汗)・・・・・・・

 

ところで、かつて夕張でも破綻直後に「予防医療を普及させて医療費の軽減につとめる」とか、「在宅診療・在宅介護を充実させて地域社会の維持につとめる」といった医療政策的プロパガンダが宣伝され、マスコミもそれを全面的に肯定するような報道を続けてきました。

 

詳しい分析は記事を改めて書くつもりですが、たとえば「高齢になればなるほど人間ドックや検診などの予防医療は無効になるとの報告があるが、夕張は大半が高齢者だ。地域全体としての健康向上としては、効果はかなり限られるのでは??」とか、「夕張は破綻前から老々介護のお年寄りが多い。そこへさらに在宅医療・介護を推進すれば生活面でさらに困窮するだけでは??」とか、一般の人が考えてもすぐわかりそうな疑問が出てきます。

 

そして実際に、現在出てきているデータはその疑問のほうが正しかったのではないか?と思わせるものばかりです。

多くのメディアはこの現実を目の前にして、口をつぐみつつあります。

そういえば、今回のiPS騒動を起こした新聞社が最も大声でこういったことを主張していたような気がしますが・・・・・・

この件に関しては検証など、どこの大手メディアもしないんでしょうか・・・・・

やれやれ、っていう感じです。

 

ではまた。

無駄に長いタイトルと長文読んで頂きありがとうございました。