困惑から怒りへ……セクハラ被害者の心情の変遷

会議中の女性

被害者は最初から怒りを噴出させるわけではない。困惑や迷いを経て、不信感や憤りが湧いてくるもの

人はセクハラを受けた時、どのような気持ちを覚えるのでしょう。カウンセラーとして被害者の話を聞くと、行為者がセクハラをやめない、相談ができない、あるいは相談しても公正な対処がなされない、といった状況に置かれると、被害者の心情は次の4つのステップを踏んでいくことが多いと感じます。職場におけるセクハラ被害を例に、被害者の心情の変遷を解説してみましょう。

1. 困惑と様子見
セクハラは、雑談などの場で性的な話題を交えたり、性的な部位を避けたボディタッチなどの行為などをしたりして、相手の反応を見ることから始まることが多いです。そのため被害者は当初、自分が受けている行為がセクハラかどうかわからず、困惑します。

この時には「軽い冗談なのかも」「性的な意味合いではないのかも」と受け流したり、楽観的に考えたりするようにして、様子を見ようとします。しかし、その気持ちの底には「強く拒絶すると、相手の気を悪くするかもしれない」「怒らせたら、仕事に影響が出るかもしれない」といった心配があります。

2. 気づきと対処の模索・迷い
行為者からのボディタッチや性的発言の回数が増えたり、二人きりでの飲食に誘われたりすると、被害者の多くは「これはセクハラにあたるのではないか」と気づくようになります。

ただし、この時の被害者の行動はさまざまです。「やめてください」とはっきり拒絶する人や「相談窓口に相談する」と告げるなどの断固とした行動をとる人もいれば、あいまいな態度をとりながら我慢する人もいます。この段階では、誰に相談したらいいのか、相談することが不利益にならないだろうか、といったことに迷い、悩みます。

3. 無力感と不信感
はっきりと拒絶できない場合、あるいは相談ができない場合、拒絶や相談をしても何の効果も見られない場合、被害者は無力感に陥ります。「私が弱い立場だから、甘く見られているのだろうか」「この組織は、職員の人権など考えていないのだろうか」といった無力感、不信感にさいなまれます。

4. 怒りと恐怖
状況が何も変わらず、組織も状況を放置していると、当事者には怒りがこみ上げてきます。自分の身を守るために、あるいは人権を無視された屈辱感から、法的手段や暴露等の手段に訴えて抗議する人もいます。怒りの感情を抱え込むことによって、抑うつ的になっていく人もいます。

また抗議する人は、逆恨みを買わないだろうか、所属する組織や取引先と敵対しないだろうか、周囲から非難を浴びないだろうかといった恐怖、抗議しない人は、さらに行為がエスカレートしていくのではないかといった恐怖を感じます。

――もちろん、すべての被害者の心情が上のステップを踏むわけではありません。行為者が誠実に謝罪をしたり、環境調整や適切な指導が行われて行為が繰り返されなくなった場合には、3や4の心情には進まず、安心を取り戻せることが多いものです。しかし、行為者がセクハラをやめない、相談ができない、あるいは相談しても公正な対処がなされない、といった状況が続くと、被害者は上記のように困惑や不信感、恐怖の念を深めながら不満を膨らませていきます。
 

職場でのセクハラ相談設置は必須! 真摯に聴き、公正に対応する

相談対応中の女性

相談窓口は、利用しやすい窓口になっていることが大切。電話やメールでも相談を受け付けられるようにしておく

では、職場でセクハラの相談があった場合、相談を受けた人はどのように対応すればよいのでしょう。男女雇用機会均等法に関連したセクハラ指針では、事業主は労働者からのセクハラの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備を行わなければならないことが明示されれています。

職場のセクハラの相談窓口はあらかじめ設置され、利用しやすい体制に整備されていることが必要です。「誰に相談したらよいのかわからない」「相談窓口はひとまず直属の上司のようだが、とても話せるような相手ではない」といった状態では、利用しやすい窓口になっているとは言えません。

利用しやすい窓口にするには、窓口が明示され、周知されていること。面談だけでなく、電話やメールなどの方法でも相談できるようにするなどの配慮が必要です。また、「『男はこうしろ、女はこうしろ』といった発言が多くてセクハラが起こりそう」「セクハラであるかどうか微妙」といったあいまいな状況や心情であっても、広く相談に応じることが必要です。

この際、相談に対応する人は、話を真摯に丁寧に聴き、相談者の意向などを的確に把握する、公正な立場に立ち、事案に即した適切な対応をすることが重要です。

相談を受けた人から適切に対応してもらえなかった場合、相談者は二重に傷つけられることになります。これを「セカンド・ハラスメント」と呼びます。たとえば、話をよく聴かないで我慢することや相談者を責めるようなことばかりが伝えられた場合には、相談者はセカンド・ハラスメントを感じ、怒りの感情が湧きあがることが少なくありません。

セクハラの相談者にもさまざまな思い、事情を持つ方がいますが、最初から行為者や組織に対する敵対心、あるいは野心を持って、意図的に問題を大きくしようと画策する方は少ないものと思われます。セクハラ問題が公になるケースは、拒否しても行為者がセクハラをやめず、職場に相談しても公正で納得のいく対応をしてもらえなかったことによって、被害者が最終手段として選択した結果であることが多いものです。

したがって、職場では安心して相談できる窓口が明示され、整備されていること、そして公正で納得性のある対応をしていくことが必要になります。また、労働局の総合労働相談センター、男女共同参画センターなどの公的な機関でも相談することができますので、セクハラ被害に困った時にはこうした相談窓口の利用も検討されるとよいでしょう。