法改正に価格の値上げ  喫煙者の肩身は狭くなるばかり…

突然ですが、読者の皆さんはたばこを吸いますか?――

厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年)によると、日本人の喫煙率は19.8%まで低下しており、健康意識の高まりが数字の上からうかがえます。新発売された1969年(昭和44年)には1箱100円だったセブンスターが、現在(2018年)は同460円になっています。物価の上昇に加え、消費税とたばこ税による増税が値上げに拍車を掛けています。こうした金銭的な負担増も喫煙者の減少に結びついています。

とはいえ、今もって国民(20歳以上)の約5人に1人がたばこを吸っている計算になり、今後、喫煙者の肩身はさらに狭くなろうとしています。

なぜかというと、1964年(昭和39年)以来、2度目となる東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)の開催決定が、禁煙の機運を醸成しているからです。近年のオリンピックでは競技場周辺などの公共の場はもとより、幅広い施設で受動喫煙を防止する方向へと舵を切っています。国際オリンピック委員会やWHO(世界保健機関)が「たばこのない五輪」を掲げており、わが国でも東京五輪に向けた受動喫煙の規制強化が不可避になっています。

こうした流れを汲(く)む形で、今年3月9日には健康増進法の改正案が閣議決定されました。国会で可決・成立ののち、多数の人が利用する施設の類型に応じ、その施設の利用者に対して一定の場所以外での喫煙が禁止されます。政府主導による喫煙者包囲網が狭まっているのです。2年後の2020年4月1日から全面施行される運びです。

 

バルコニーでの身勝手な喫煙は、不法行為に該当して「違法」との判決あり

編集者注:マンションのバルコニーでの喫煙は、一般的に「ベランダ喫煙」と表現されることが多いです。マンションで「ベランダ」と呼ばれる箇所は、正確には「バルコニー」であることが大半です。本稿では、バルコニーやベランダでの喫煙のことは「ベランダ喫煙」と表現します
 

バルコニーのイメージ写真

名古屋地裁は「バルコニーでの喫煙は受忍限度を超え、違法である」と判示した。


実は、受動喫煙に対するトラブルは分譲マンション内でも頻発しています。訴訟に発展するケースもあり、実際、名古屋市内の分譲マンションでは次のような争いがありました。

訴えを起こした70歳代の女性です。下階のバルコニーから上がってくるたばこの煙がストレスとなり、帯状疱疹(ほうしん)を発症。そこで、手紙や電話で何度もバルコニーでの喫煙をやめるよう求めましたが、真下に住む60歳代の男性は応じようとしませんでした。

男性は「使用細則にバルコニーでの喫煙を禁じる規定は書かれていない」と主張。たばこを吸いながら景色を眺める楽しさや私生活の自由を挙げ、違法性はないと反論しました。

確かに、バルコニーには専用使用権が具備されており、その住戸の居住者が独占的に使用することができます。マンション生活のルールを定めた管理規約や使用細則に抵触しない限り、通常の使用方法の範囲内で自由な使い方が認められています。

以上を踏まえ、名古屋地裁は「バルコニーでの喫煙は違法」と判示し、被告に精神的な損害への慰謝料を支払うよう命じました。「たとえ自己所有のマンションといえども、いかなる行為が許されるわけではない。その行為が第三者に著しい不利益(=不法行為)を及ぼす場合には、使用制限が加えられることはやむを得ない」と糾弾。「受忍限度を超え、違法である」との判決を言い渡しました。


 

義務違反者には3段階の制裁措置が法的に用意されている

読者の皆さんが住む分譲マンションで同様のベランダ喫煙トラブルが発生した場合、この判決を参考に対策立案してほしいと思います。

本件では民法に規定する「不法行為」に基づいて判断がなされました。不法行為とは、故意または過失により他人の権利を侵害する行為です。不法行為が成立すると、侵害した行為者はその侵害から生じた損害を賠償しなければなりません。

よって、司法による解決を求める場合、上述した判例のように不法行為を根拠に提訴するといいでしょう。被害の程度が我慢の限界(受忍限度)を超えるか否かが勝敗の分かれ目となります。管理組合はオブザーバーとなり、弁護士の協力のもと、住民が原告あるいは被告となって法廷で争うことになります。

ただ、不法行為の効力は損害賠償請求が限界のため、再発の防止までは担保できません。そこで、次に登場するのが区分所有法に定める「義務違反者に対する措置」です。

《共同の利益に反する行為の停止等の請求》(第57条)
騒音、悪臭、振動、喫煙などにより近隣住民の生活を妨害し、受忍限度を超える場合、区分所有者の共同の利益に反することとなり、その行為者に対して違反行為の停止を請求できる。マンション内で喫煙しないよう要求できる権利

《使用禁止の請求》(第58条)
上述した行為の停止要求に従わず、共同生活上の障害の程度が極めて高い場合、総会決議によって訴訟を提起し、違反行為者に専有部分の使用禁止を請求できる。喫煙によって迷惑を及ぼし、再三の警告にもかかわらず吸い続けるなど、違反行為の程度が著しく重大の場合に限り、相当の期間、室内への立ち入りを禁止できる強制力の高い権利

《区分所有権の競売の請求》(第59条)
違反行為が第57条あるいは第58条の行使によっても解決できない場合、総会決議に基づき訴えをもって、違反者のマンションの競売(強制売却)を請求できる。究極の最終手段として、喫煙が近隣住民の生命を脅かすような危機的な被害状況に陥った場合に限り、その喫煙者の有する区分所有権と敷地利用権を剥奪(はくだつ)できる権利

このように喫煙による共同生活上の障害の程度に応じて、3段階の義務違反措置が用意されています。知らない住民のほうが多いと思いますので、こうした請求権が区分所有法にあることを告知するだけでも、抑止効果につながるものと思われます。


 

管理規約の改正や対策マニュアルの作成が解決への第一歩

禁煙のイメージ写真

受動喫煙により人の健康に悪影響が生ずることは科学的に明らかにされている。管理規約の改正や対策マニュアルの作成により、トラブル減少への努力が欠かせない。


とはいえ、できれば法廷闘争には持ち込みたくないというのが本音でしょう。管理規約や使用細則を拡充あるいは改正し、喫煙トラブルの減少につなげるのが現実的です。

総会決議による4分の3以上の賛成が得られれば、「バルコニーでの喫煙を禁止する」旨の規約改正が可能です。「電子たばこの取り扱いをどうするか?」など、いくつものケースを想定して管理規約に盛り込むと効果覿面(てきめん)です。

同時に、喫煙トラブルが頻発するマンションでは、対策マニュアルの作成も有効です。まずは管理組合や管理会社を差出人とする書面の送付から始め、次に管理人による注意、理事長による警告というように、段階を踏む必要があります。被害者が加害者宅を訪問し、いきなり直談判するのは得策ではありません。円満解決のための方策をマニュアル化しておくと、禍根を残さずにトラブルを収束させられます。

受動喫煙により人の健康に悪影響が生ずることは科学的に明らかにされています。受動喫煙防止の強化策が急がれているのは間違いありません。良好なマンション生活を維持するためにも、トラブル対策は待ったなしです。