副業・兼業・ダブルワーク実践者の増加と取り巻く環境

働き方改革が進んでいます。時間・場所にとらわれずに働き、生産性を上げる。その流れが副業、兼業、ダブルワーク、パラレルワークといった複数カ所で仕事をする、働き先の多様化につながっています。人生100年時代といわれ、インターネットによる在宅ワークが容易となったことも、この流れに拍車をかけています。

一方で、副業・兼業を解禁、容認する企業は増えているとはいっても、まだ少数派です。本業が疎かになる、情報漏えいのリスクがある、自社の仕事との利益相反になる場合もある、等の問題があるためです。

 

副業解禁時の就業規則…政府による「モデル就業規則改定案」も

副業,解禁,兼業,兼職,小遣い稼ぎ

副業が促進される時代へ

副業禁止をめぐって争われた裁判では、「従業員が就業時間以外の時間をどのように過ごすかは、従業員の自由に委ねられているのが原則であり、就業規則で兼業を全面的に禁止することは不合理である」という判断が出ています。

「副業・兼業禁止規定は、それ自体が直ちに無効となるものではないものの、就業規則によって禁止される副業・兼業は、会社の企業秩序を乱し、労働者による労務の提供に支障を来たすおそれのあるものに限られる」という判断が一般的なのです。


副業を推し進めたい政府は、企業に就業規則改定を推奨しています。以下は厚生労働省が提示した「モデル就業規則改定案」です。

(副業、兼業)
第65条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務が次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
1 労務提供上の支障がある場合
2 企業秘密が漏えいする場合
3 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
4 競業により、会社の利益を害する場合


 

企業から見た副業のメリット・デメリット

今一度、副業、兼業のメリット、デメリットを整理してみましょう。

企業側から見てみます。

企業側から見た副業解禁のメリット

  1. 副業、兼業をすることで、従業員が社内では得られない知識やスキル、人脈を獲得し、それを本業に活かし、事業の貢献に繋がる
  2. 副業、兼業することで、従業員の自立性、自主性を促すことができる
  3. 副業、兼業ができることにより、優秀な従業員獲得ができ、一方で、優秀な従業員の退職を防ぐことができる

■企業側から見た副業解禁のデメリット

  1. 副業、兼業する従業員の労働時間管理、健康管理、情報漏えいや企業秘密の保持、そして、競業避止をどのように確保するかが課題となる


 

社員から見た副業のメリット・デメリット

■社員から見た副業解禁のメリット

  1. 本業を持ったまま別の仕事に就くことができ、今後の起業、独立のための助走期間とできる
  2. 本業をしながら、自らやりたい仕事に挑戦できる
  3. 副業、兼業を通じて、新たなスキルや知識、人脈を獲得できる
  4. 副業、兼業により所得の増加が見込める


■社員から見た副業解禁のデメリット

  1. 労働時間が長くなる可能性があり、自ら労働時間管理や健康管理をする必要がある
  2. 本業における職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務の意思が必要となる
  3. 1週間の所定労働時間が短い仕事を複数持つ場合、雇用保険等の適用がない場合が生ずる


 

副業解禁時の労務管理の注意点

企業側が副業、兼業を容認した場合、就業時間の把握、健康管理等の課題が生じます。

  • 就業時間の把握

労働基準法では「自社の従業員が、自社及び副業兼業先で雇用契約状態にある場合は、両方での労働時間を通算する」とされています。

第38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」とされ、「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合も含む」とあります。本業先の企業側としては、副業・兼業をしている従業員からの自己申告により、副業・兼業先での労働時間を把握する必要があります。

  • 割り増し賃金

実務上課題となるのが。割り増し賃金の件です。

1日8時間、1週40時間を超える場合の割り増し賃金の支払いは、複数の事業所で働いた場合も適用されます。副業先の労働時間を含めた割り増し賃金が発生する場合は、原則として後から雇用契約を締結した使用者に支払い義務があります。アルバイト等含め、自社が割り増し賃金の支払い義務が生じる可能性もありますので、他での雇用関係について確認が必要です。

一方、副業・兼業を個人事業主や業務委託、請負で行う場合は、労働基準法上の労働者でない者として、労働時間に関する規定がなく、本業の企業側として労働時間の管理は必要ありません。しかし、過労等により本業に支障を来たさないように、本人と共に配慮する必要があるでしょう。

  • 健康診断

所定労働時間の4分の3以下の短時間労働者は労働安全衛生法第66条第1項に基づく健康診断の対象とはなりません。

副業・兼業により所定労働時間の4分の3を超えてしまう場合にも、当該労働者に対する健康診断の実施義務はない、という厚生労働省の見解が出ています。つまり、「本業先での所定労働時間が4分の3以上である場合」に限り、健康診断を受けさせる義務があるのです。

とは言え、本業と副業、兼業との状況を把握しながら適切な管理が取れるよう、社員とのコミュニケーションを密にしていくことが望まれます。他事業所での労働時間や残業の有無、自社とあわせた総労働時間等を確認し、労働者の健康状態を管理することが必要でしょう。

  • 雇用保険

雇用保険は、「その人が生計を維持するのに主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ」被保険者となりますので、副業で2社以上から賃金を得ていても、給付は1社分しか受けられません。また問題となるのが、2つの異なる会社で働いていても、その2社での労働時間が雇用保険の規定時間数に足りない場合、どちらも被保険者になれないことが生じます。

また、労災保険は個別の事業所単位で適用されるため、副業先で労災適用となっても本業での補償はありません。生活に支障を来たすケースもあるでしょう。

企業側としては、以上2点について、副業する労働者に伝えると良いでしょう。


 

副業・兼業解禁の先にあるものとは

大きな流れは、副業・兼業が促進に向かっています。厚生労働省としては、労働時間の通算の問題や健康管理の徹底のためのルール設定をされるでしょうし、本業、副業、双方にまたがる場合の雇用保険や労災保険の取り扱いなどの課題への対応もされることでしょう。

経済産業省は、副業・兼業を促進している企業事例を取材し、好事例としてPRすることで、踏み込めない企業への後押しをする予定です。

副業

課題がありつつも、副業が企業業績へ大きなインパクトを持つ


期待されるのが「地方創生」への波及効果です。地方企業は優秀な経験者を必要としていますが、都心で働く経験者を雇用するにはコストや相性などの問題があります。副業・兼業という形であれば、地方企業、労働者双方がリスクを減らしたマッチングができるでしょう。

また、優秀な人のスキルを多くの会社でシェアする、タレントシェアリングも考えられます。一つの会社だけにその活躍の場を留めておくのではなく、多くの会社でそのスキルを活かし、世の中の役に立つ。そんな世界が、副業・兼業時代の先に描かれています。

『月刊総務』2018年4月号でも、厚生労働省、経済産業省の担当官に国の動きを取材しており、また企業事例も専業禁止を謳っているエンファクトリー、昨年から申請により許可しているソフトバンクの2社の事例を紹介しているので、ぜひ参考にしてください。