映画のタイトル(邦題)はどうやって付けられる?

2017年6月、映画『ドリーム わたしたちのアポロ計画』の邦題に批判が殺到し、『ドリーム』に変更となる出来事がありました。
 

(C)2016 Twentieth Century Fox

(C)2016 Twentieth Century Fox


なぜこの邦題が大いに批判され、変更となったのか、その理由を簡潔にまとめると以下になります。

(1)実際に映画で描かれているのは、人類初の有人宇宙飛行を目指す“マーキュリー計画”であるのに、月面着陸に成功した“アポロ計画”という、まったく異なるものを邦題に入れたから。
(2)歴史の裏で活躍した黒人女性たちにスポットライトを当てた作品であり、原題の『Hidden Figures(隠された人たち/数字)』もそのことを意味していたから。
(3)配給会社の担当者がこの問題について、「マーキュリー計画が映画のメインであることは当然認識しており、確かにこの邦題には懸念の声もあがったが、日本のお客様に広く知っていただくために宇宙開発を連想しやすい“アポロ計画”という言葉を選んだ」と回答し、さらなる批判の声があがったから。

※参照元:
タイトルと内容が違う…?大ヒット映画の邦題「私たちのアポロ計画」に批判 配給会社に聞く

日本で名の知れたスター俳優が出演していない作品を、映画館で何とか上映するために、日本人にもわかりやすいタイトルをつける、という点においては、その意図は理解できます。担当者の方が関係者の“説得”のために邦題をよりキャッチーにしたであろうことも、想像に難くありません。

そうであったとしても、“事実と異なる”邦題を歓迎することはできません。実在の偉大な人物たちを描いたノンフィクションであるのに、彼女たちの功績を軽んじているようにも感じられてしまいます。映画を世に届ける仕事をされている方が、このような判断をしてしまうのは、やはり残念と言わざるを得ません。

実は、こうした映画ファンの不満が噴出してしまう、“不誠実な邦題”は今に始まったことではありません。以下からは、その例を紹介してみます。

 

明らかな事実誤認がある邦題

映画のタイトルには、やや抽象的であったり、映画を観てからその意味がはっきりするものもあります。そのままでは日本人には伝わりにくいこともあるため、邦題ではサブタイトルをつけたり、原題とはまったく異なるワードを入れるなどして、具体的な内容をわかりやすくすることもよくあるのです。その多くは問題なく、時には映画に新しい解釈をもたらしてくれることもあるのですが、なかには内容にマッチしない邦題も存在しています。

例えば、2008年のスウェーデン製の吸血鬼映画『ぼくのエリ 200歳の少女』は、実際に映画を観た方から、邦題への間違いを指摘する声が多く挙がりました。詳しくはネタバレになるので書けないのですが、“200歳の少女”というサブタイトルが、内容にまったくそぐわないものなのです。邦題だけでなく、劇中の“ボカシ”も、映画で重要な部分をわかりにくくしていると大いに批判を浴びていました。

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2016年の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』も問題視されていました。原題の『Big Short』は作中の登場人物が実行する“莫大な空売り”を指しているのですが、邦題ではその意味がわからなくなっています。さらに、主な物語も「やがて来る金融破綻のために、周りからの理解を得られなくても虎視眈々と準備をする」というものなので、“華麗”も“大逆転”もないのです。(ただし、この邦題には「イメージと違っていい意味で予想を裏切られた」という肯定的な意見もあります)
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明確に誤りであると断言できる邦題には、2007年の『大いなる陰謀』があります。はっきり言って劇中には陰謀なんてものはなく、存在するのは政治家が“日常的に行っている業務”なのですから。原題の『Lions for Lambs(子羊のためのライオン)』は作中の出来事に重要な知見を与えているのですが、それもまったく汲み取らない、的はずれな邦題になってしまいました。
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極めつけは、2011年のオーストリア映画『ミケランジェロの暗号』。なんと、劇中にミケランジェロの暗号は出てきません!“ミケランジェロの絵”と“暗号”はそれぞれ別の場所で出てくるのですが……くっつけないでほしいものです。ちなみに、日本のパッケージのイメージと違って、意外にも“クスクス笑える痛快なコメディ”な印象も強い作品でした。
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関係のないヒット作にあやかる邦題

“史上最低の邦題”と名高い作品といえば、2004年の『バス男』。冴えない男子高校生たちの友情を描いたコメディとして高い評価を得ていたのにも関わらず、当時日本で流行していた『電車男』にあやかったタイトルは大バッシングをされていました。2013年に『ナポレオン・ダイナマイト』と原題そのままに改題された時には、パッケージに「時代に便乗して、こんな邦題をつけてしまい、大変申し訳ありませんでした」という“公式の謝罪”が添えられました。

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 同様に、2008年に日本でリリースされた『26世紀青年』も、当時大ヒットしていたマンガ『20世紀少年』に便乗した邦題でした。原題の『Idiocracy』は「idiot(バカ)」と「cracy(政治、国家)」を合わせた造語であり、内容は皮肉に満ちた社会派コメディ映画として評価されています。ドナルド・トランプが大統領に選ばれた時、「『26世紀青年』はこの未来を予言していた!」と話題になったこともありました。

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「ダサい」と思ってしまう邦題

どうしても主観が入ってしまうのですが、作品の素晴らしさに反して、どう考えても「ダサい!」と思ってしまうのは、2010年の『小悪魔はなぜモテる?!』でしょうか。原題は『easy A』とシンプル(Aはadulteress(姦婦)の意)で、内容はアメリカの若者の(性)文化を知ることのできる優れたコメディです。『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンが“噂のせいで尻軽女のレッテルを貼られてしまう”女子高生に扮しているので、今ではその役のギャップも楽しめるでしょう。
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「名作であるのにタイトルで敬遠しないで欲しい!」と強く願うのは、1993年の『恋はデジャ・ブ』でしょうか。この作品は恋だけでなく、人生すべてを包括しているテーマ性を持っているのに、安いラブコメを連想させるこのタイトルは……とてもじゃないですが、歓迎できません。物語は、意地の悪い男が同じ日を何度も何度も体験してしまうというもので、クライマックスでは唯一無二と言えるほどの感動が待ち受けています。ぜひ、多くの方に観てほしいです。

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続編のようなのに、続編でない邦題も

今まで挙げてきた邦題は、良くも悪くも(だいたい悪いですが)「多くのお客に届けたい」という気概を感じるものでした。しかし、時代を遡ると“映画をよく観ている層だけに向けた詐欺とも言える邦題”も存在しています。

その代表とも言えるのは、1978年に日本で公開された『サスペリア PART2』でしょう。ヒットした『サスペリア』と同じ監督の作品ではあるものの、まったく物語が関係ないどころか、『サスペリア』よりも前に製作された作品にも関わらず、“続編として公開したほうが売れる”との判断でこの邦題になったのです。『サスペリア』の正式な続編には『インフェルノ』と『サスペリア・テルザ 最後の魔女』があるのですが……日本では実にややこしいことになってしまいました。
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1967年に日本で公開された西部劇の『続 荒野の用心棒』(原題:Django)も、実は『荒野の用心棒』の続編ではありません。『荒野の用心棒』の本来の続編は『夕陽のガンマン』なのです。後世に残る名作であるのに、なんともまぎらわしいです。
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それらとは逆に、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』という原題から『Vol.2』というナンバリングを表記を取り払い、前作を観ていない層にもアピールしたと思しき邦題が批判をされていました。「リミックス」という言葉で連想するのは、どちらかといえば“特別編”や“再編集版”といったイメージでしょう。完全な続編に「リミックス」をつけるのはやはり違和感を覚えてしまいます。
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作品の良さを引き出した名邦題たち

邦題の批判ばかりでは申し訳ないので、ここからは素晴らしい邦題も紹介してみます。

2011年の『おとなのけんか』は、全てひらがなであることが、作中の喧嘩の“幼稚さ”を表している優れた邦題です。原題の『Carnage(大虐殺/修羅場)』よりも柔らかい印象なのもいいですね。豪華キャストの演技力と、いい意味で意地の悪い展開を、短い上映時間であってもたっぷりと楽しめる優れたコメディでした。
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前述した『バス男』と『26世紀青年』とは違い、「便乗した邦題なのに素晴らしいセンスだ!」と思ったのが、2000年のタイ製のコメディ映画『アタック・ナンバーハーフ』。実在したLGBTのバレーボールチームが差別や偏見を乗り越えて戦う姿を描いた作品を、日本の大ヒットマンガ『アタックNo.1』にひっかけるとは!ちなみに、マンガの作者である浦野千賀子の承諾を得たうえでこの邦題がつけられています。
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「作品のスピリットをよく汲み取った!」と賞賛したいのが、1984年のカルト映画『悪魔の毒々モンスター』。原題の『The Toxic Avenger』をそのまま直訳すると「毒性の復讐者」とカッコよすぎな印象になってしまうところを、圧倒的な語感の良さで“B級映画らしさ”を表現してしまうとは恐れ入ります。
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その他、詳細はぜひ映画を観て確認していただきたいのですが、『天使にラブソングを…』、『あの頃ペニー・レインと』、『山猫は眠らない』、『太陽と月に背いて』、『この森で、天使はバスを降りた』、『隣人は静かに笑う』、『俺たちに明日はない』、『キングコング:髑髏島の巨神』、『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』なども、優れた邦題として挙がりやすい作品です。映画本編の内容を、見事に日本語に落とし込んだ邦題は、作品のファンとして何ともうれしくなりますね。
 

邦題は“キャッチコピー”にすぎない?

このように批判された邦題は数多くあるのですが、「邦題は映画本編とは関係がないから、そこまで怒らなくても良いのでは?」という意見もあります。それは確かにその通りで、アニメ作品などのごく一部を覗き、映画本編では「原題」のタイトルが表示されるので、邦題が鑑賞の妨げになることはほとんどありません。

どのような邦題であろうとも、マーケティングのための“キャッチコピー”のようなものであると、容認してもいいかもしれません。例えば、『俺たちニュースキャスター』や『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』などの「俺たち」がタイトルまたはサブタイトルについたシリーズも、映画の内容を端的に伝えたいための手法ではあるので、個人的にはその全てに目くじらを立てなくてもよい、とも感じます。
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ただ、やはりタイトルが重要な意味を持ち、タイトルを事前に知っていることこそが大きな感動を呼ぶ作品があることも事実です

『LION/ライオン ~25年目のただいま~』は、「LION」という「どういう意味だろう?」と疑問を持たせる題がとても重要であったので、サブタイトルを付けるだけにとどめたのは英断でした。
「LION/ライオン~25年目のただいま~」オリジナル・サウンドトラック


現在も公開中である『LOGAN/ローガン』では、サブタイトルもなく、「ローガン」という1人の男の物語を描いた作品であることを強調したい、という気概が伝わってきます。事実、本作を手掛けたジェームズ・マンゴールド監督も、主人公の通称である“ウルヴァリン”という名前を入れないことにこだわっており、日本の配給会社がサブタイトルをつけなかったことに安堵をしていたようです。
【映画パンフレット】LOGAN ローガン 監督 ジェームズ・マンゴールド


さらに重大なことには、たとえ邦題に事実誤認があったとしても“後世にまで残る”ということです。前述した通り『サスペリアPART2』や『続 荒野の用心棒』はややこしいことになってしまいましたし、仮に「わたしたちのアポロ計画」の邦題がそのままであったら、内容と食い違うタイトルがずっと存在し続けてしまうことに居心地の悪さを覚えていたことでしょう。

元が「Ragnarok」というサブタイトルであったのに、邦題が『マイティー・ソー バトルロイヤル』(2017年11月3日公開予定)になってしまったこともありました。アメコミ映画のシリーズは基本的に原題そのままの邦題になるのですが、この1作だけ原題と邦題が異なる作品になってしまったことに、ファンからの怒りが噴出するのも、無理からぬことです。
 

映画のタイトルが持つ影響力

近年の邦題の問題を振り返って感じるのは、作品をまったく知らない人にも興味を持ってもらうという“マーケティングの事情”が見え隠れすること、その過程において作品を真に楽しみにしている“本当のファン”の気持ちをないがしろにしてしまっていることがある、ということです。

邦題とは少し話はズレますが、つい先日、熱烈な日本のファンがたくさんいる『バトルシップ』の地上波放送が、現実のイージス艦衝突事故を連想させるとして中止になる、ということもありました。中止や延期が正しい判断であることもままありますが、『バトルシップ』の肝心の本編は“艦隊が宇宙人と戦うお祭り映画!”な印象であり、実際の事故とは似ても似つかないものです。こちらも“本当のお客さん”の意見を無視した過剰な反応であり、不誠実な判断であると言わざるを得ません。
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その他、今までに同じキャラを担当した声優を降板させて話題度優先のタレントを吹替に起用するといった、ファンはもちろん作品に対して失礼極まりない問題も、根深いものになっています。

世の中には、演劇、野球、コンサートなどの大衆が一同に集まる娯楽がたくさんあり、それらが“そのターゲット”に向けて宣伝をしているのに関わらず、映画では最も大切にするべき“ファン”というターゲットを無視して、このような不誠実な宣伝や判断をすることがあるのはなぜなのでしょうか。

日本では、映画を映画館で年1回も観ない層が人口の半数近くを占めているという現状があります(リサーチバンクの調査データによると、映画館に行くペースを「年に一回より少ない頻度」と答えた割合は全体で42.9%)。他の娯楽に比べれば映画は“敷居が低い”ところもあるため、現状の映画宣伝の多くは、そうしたライトな層に目を向けたものがほとんどなのでしょう。

しかし、そうしたライトな層に向けた宣伝が必要であるにせよ、それにより作品を最も楽しみにしているファンを嫌な気持ちにさせてしまっては、長い目で見れば逆効果になってしまうのではないでしょうか。

もちろん、映画の宣伝担当の方が、素晴らしい作品を世に届けるために情熱を持って仕事をされており、作品の認知のために誠実な工夫を凝らしていることがほとんどでしょう。

しかしながら、どのような“大人の事情”があるにせよ、作品を楽しみにしているファンの心を踏みにじってしまうことがあれば、批判をされてしまうのは当たり前ですし、その声には真剣に耳を傾けなければならないはずです。『ドリーム』の邦題が変更されたことにより、これからの邦題を含めた映画宣伝が誠実になることを、願ってやみません。

なお、今回の『ドリーム』の邦題が変更されたのは、(真偽は定かではありませんが)ファンが監督本人にTwitterで直に伝えたから、という見方が強まっています。映画ファンの具体的な行動により映画業界が変わる兆しが見えた、というのは、SNS時代ならではでしょう。


 

劇場で『ドリーム』が観られることへの感謝を

邦題への批判および変更により、どちらかと言えばネガティブな話題として取り上げられた映画『ドリーム』ですが、ただ1つ、間違いなく喜ばしいことがあります。それは、ビデオスルー(劇場で公開されずにソフト版が発売されること)になってもおかしくなかった作品の劇場上映が決定したということです。

元来、日本では黒人を主役とした映画は日本ではヒットしにくく、アカデミー作品賞を受賞している『それでも夜は明ける』や『ムーンライト』であっても、大ヒットと言える数字は出していません。

さらに、優れた作品でもあっても、日本で劇場でかけた時の利益が見込まれなければ、ビデオスルーになることも少なくないという現状もあります。

『ドリーム』の邦題に、事実と異なる「アポロ計画」がつけられてしまったのも、そのような現状でも劇場公開を実現するべく、何としてでも広い層に知ってもらうための(間違っている)苦肉の策ではあったのでしょう。

事実、アカデミー賞助演女優賞受賞作でもあった、同じく黒人を主人公にした映画『フェンス』は、日本では劇場公開がされず、ビデオスルーの憂き目にあっていました(2017年6月7日にDVD&Blu-rayが発売)。『トレーニング デイ』や『マグニフィセント・セブン』のデンゼル・ワシントンというスター俳優が主演でもあるにも関わらず、なのです。
フェンス ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]


 実際に『フェンス』を観たところ、家族の中での確執、社会で差別を受け続けたことによる悲劇を、繊細な演出と、見事な役者の演技で魅せた素晴らしい作品でした。テーマとしては、『この世界の片隅に』や『葛城事件』という日本の名作邦画を思わせるところもあり、日本人でも感情移入がしやすいでしょう。

申し上げたいのは、『フェンス』という名作であっても日本では劇場でかからないことがある、だからでこそ『ドリーム』が映画館で上映されるという、奇跡と言ってもよい事実に目を向けて欲しい、ということです。

個人的な観点ではありますが、映画は劇場で観たほうが、さらに作品に没入でき、感動することができる素晴らしい娯楽です。1人の映画ファンとして、『ドリーム』を映画館で堪能できる日(2017年9月29日公開予定)を、心待ちにしています。

映画『ドリーム』公式サイト