注目される刑事ドラマ、何が進化しているのか

CRISIS (c) 2017 カンテレ

CRISIS 公安機動捜査隊特捜班 (c)2017 カンテレ

2017年春シーズンに注目されている刑事ドラマは、どの作品も丁寧に、しっかりとつくりこまれた名作ばかり。社会が抱える課題に取り組み、時代をみごとに掘り下げながらも、流行に迎合することのない骨太さとエンターテインメント性を共存させてきたことが、指示される理由のひとつ。ますます、おもしろくなる刑事ドラマですが、昔と比べるとずいぶん変化しています。今回はその進化をさぐります。

 

1.犯行トリック

「鉄道トリック」から「防犯カメラ」へ
綿密に仕組まれた犯人のアリバイを崩すのが刑事ドラマのおもしろさ。かつてよく見た鉄道トリックでは、犯人の「鉄道に乗っていた」とするアリバイを崩すため、時刻表とものさしを卓上に広げ、その後、現地の鉄道で追体験、見えてくる新事実に、事件は一気に動いたものです。

世の中が進化したいま、トリックのカギは防犯カメラに。『科捜研の女』(1999年~)によく登場するNシステムや顔認証システムが事件を大きく動かします。『小さな巨人』(2017年)芝署編では、吉田羊が演じた防犯管理を担当する池澤菜穂が、防犯カメラの映像を加工して隠蔽工作したことは記憶にあたらしいところ。罪を犯す側も謎を解く側も、防犯カメラを制することが大きなカギになるようです。

 

2.警察の新設部署

「あり得ない部署」から「ありそうな部署」へ

昭和のドラマでは、ハードな潜入捜査が印象的だった警視庁Gメン本部(『Gメン’75』1945年~1982年)や国際警察特別室(『キイハンター』1968年~1973年)の活躍をファッショナブルに表現、あり得ない部署はどこか眩しく感じました。たしかに専門部署ではありますが、描かれる世界はまさに「ドラマ」、社会問題の描写はあるものの、非現実的な空気が魅力的でした。

やがてIT化が進み複雑になる犯罪に対応して専門部署が一気に増加、ドラマのなかは、いつも新設ラッシュです。警視庁捜査一課 犯罪行動分析室(『LADY~最後の犯罪プロファイル~』2011年)、警視庁刑事部捜査一課内の特命捜査対策室(『絶対零度』2010年・2011年)、警視庁公安部未詳事件特別対策係(『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』2010年)、警視庁刑事部総合事犯対応係(『スペシャリスト』2016年)、警視庁刑事部捜査捜査第一課緊急事案対応取調班(『緊急取調室』2014年・2017年)……、長い部署名はなかなか覚えられませんが、精鋭集団の活躍は見ていて気持ちがいいもの。かつての専門部署に比べリアリティーを感じます。

物語の流れはおおむね、専門部署設立→高度なスキルで事件を解決→やがて、事件の背景や組織の関与に気づく→組織に疎まれる→チームとしての判断を強いられる→打倒巨悪で決戦に臨む。わかっていても、小さなチームが巨悪に向かう構図は、常にわたしたちを夢中にします。

 

3.捜査を支えるスペシャリスト

「得意な人」から「訓練されたプロ」へ

多彩な専門部署で活躍するのは、個性的なスペシャリストです。かつて『太陽にほえろ!』(1972年~1986年)では、手先が器用な殿下(小野寺昭)が爆弾解体を担当したり、パソコンマニアのマイコン刑事(石原良純)がコンピューター犯罪を担当したり、大胆な仕事が見受けられました。

しかし、最近は犯罪の特異性に応じ、専門部署のスペシャリストが対応します。警視庁刑事部交渉課準備室の真下正義(『踊る大捜査線』シリーズでユースケ・サンタマリアが演じる。1997年~2012年)、警視庁刑事部捜査第一課特殊犯捜査係(ST)5係・交渉班の宇佐木玲子(『交渉人』シリーズで米倉涼子が演じる。2008年~2009年)、緊迫した心理戦を見せる交渉人の交渉術は視聴者をうならせました。


警視庁公安部公安機動捜査隊特捜班でサイバー情報を担当した大山玲(『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』新木優子、2017年)や警視庁捜査第一課特別犯罪対策室をサポートした黒原理香(『BOSS 2ndシーズン』成海璃子、2011年)などパソコンのスペシャリストも欠かせません。高度な技術とスピードで、社会の裏の裏まで侵入したり、情報操作を仕掛けたり。

映像技術の進化で、視聴者に専門的な内容をわかりやすく解説できるようになったこと、専門性の高い内容をインターネットや番組ホームページで確認できるようになったことも、専門性の進化をささえる要因と言えるでしょう。

 

4.最終回のラスボス

「凶暴な黒幕」から「内部犯行をも含む巨悪な組織」へ

史上最強の犯罪者の登場で史上最悪の事件へと発展したかつての刑事ドラマの最終回。『西部警察』シリーズ(1979年~1984年)の最終回タイトルは『さよなら西部警察 大門死す! 男達よ永遠に…』、『太陽にほえろ!PART2』(1986年~1987年)は「さらば!七曲署」、『はぐれ刑事純情派』ファイナルとなった18シリーズ(2005年)の最終回は「安浦刑事よ永遠に」……壮大かつ切ない内容に胸をしめつけられたものでした。

最近は最終回に向かって物語が加速、終盤に「情報が漏れている!」と気づき、劣勢だった新設部署が内部犯行をあぶり出し、巨悪との最終決戦に臨みます。『BOSS 1stシーズン』(2009年)では、犯人逮捕のために視聴者までもあざむくBOSSらしい華麗な仕掛けで楽しませてくれました。最近では巨悪にのみこまれたかのような『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(2017年)の最終回が話題に。巨悪に立ち向かう決心をしたのだと思わせるメンバーそれぞれの姿が映った直後、緊急ニュースの速報が入ったところで物語は終わり。何が起こったかはわからないままの終わり方に、視聴者の反応は様々でした。たしかにスカッとはしないものの、間違いなく記憶に残る最終回、刑事ドラマの進化と新しさを感じました。

 

5.犯罪

「赤か白かの爆弾」から「ウイルス感染、劇場型SNS」へ

『大都会』シリーズ(1976年~1979年)や『西部警察』シリーズに見る爆破の連続、ヘリコプターを駆使した『特捜最前線』(1977年~1985年)など、大掛かりだった刑事ドラマは、多様化する犯罪のダイナミックな側面と繊細な側面を丁寧に描写しています。

相棒(c)2017「相棒-劇場版-」パートナーズ

相棒(c)2017 「-相棒劇場版-」パートナーズ


タイムリミットぎりぎりで解除されるとわかっていてもハラハラする爆弾犯罪は、『ガリレオ』第1シーズン(久米宏演じる元教授が仕掛ける。2007年)や『BOSS 1stシーズン』の最終回(反町隆史演じるテロリストが仕掛ける。2009年)にも登場、最終回らしい重厚感は見応えがありました。『相棒』(2002年~)、『科捜研の女』『ストロベリーナイト』(2012年)では、ウイルス感染を狙った事件が発生、首都東京、あるいは日本列島を恐怖のどん底におとしいれるウイルスとの闘いに焦燥したものです。さらに、SNSを利用した犯罪も増加、犯罪予告とその拡散、人質の生中継など、一般市民を巻き込んでの臨場感あふれる劇場型犯罪の増加にも注目です。

 

6.ファッション

「非日常的な着こなし」から「日常的なシンプルスーツ」へ

かつて刑事たちは、『非情のライセンス』シリーズ(1973年~1980年)や『Gメン‘75』のように、トレンチコートに身を包む渋い大人スタイルや、『西部警察』シリーズや『あぶない刑事』シリーズ(1986年~1989年)での不良っぽさを残したスタイルで視聴者を魅了。実録の警察ドキュメント番組で見ることのない目立つスタイルに、「そんなカッコウで尾行できるのか」とちょっと気になったりしたものの、ファッションリーダー的ミッションも担っていたようです。

しかし、気が付くと『踊る大捜査線』の青島刑事(織田裕二)は、ごくふつうのスーツ姿にモッズコート、その後もドラマのなかの刑事たちは普通のスーツ姿が主流、捜査会議は落ち着いたカラーのスーツ一色です。公務員的要素×実務的な要素で一般性を演出する刑事ドラマの方がリアリティーがあるようです。

 

7.アクション


「かっこいい」から「手に汗握る」へ

銃をぶっ放す、車をぶっ飛ばす、『西部警察』や『あぶない刑事』の派手なアクションに「かっこいい!」と胸は高鳴り、犯罪への怒りに奮い立つ刑事たちにしびれたものですが、最近ではアクションが本格化。

『MOZU』(2014年)では、目を覆いたくなる格闘シーンの連続に息をのみ、『SP 警視庁警備部警護課第四係』(2007年~2008年)や『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(2017年)では、刑事たちの高い身体能力とスピード感あふれる武術カリ・シラットを堪能、『S -最後の警官-』(2014年)では、ほふく前進やロープ上りなど、制服姿の活躍にプロを感じました。息もできない緊張感で手に汗握るアクションも、刑事ドラマをささえています。

 

8.刑事魂

「熱い情熱」から「孤高のクール」へ

あうんの呼吸で結束する心意気や和気あいあいのファミリームードが強かった刑事ドラマも、『新参者』(2010年)の加賀恭一郎(阿部寛)や『アンフェア』(2006年)の雪平夏見(篠原涼子)、『相棒』の杉下右京(水谷豊)といった、孤高の主人公たちの登場で、描かれる組織は大きく変わってきました。『緊急取調室』では、飲み会が多いものの、ベッタリした関係ではない理想の大人チームを感じます。事件に対する熱い思いや信頼関係は昔も今も同じですが、信頼関係の築き方は時代とともに変化しているのかもしれません。熱い気持ちだけでは解決できない、そんな現実を描き出す刑事ドラマのクールな視点が、共感を得ているのでしょう。

 

誰もが夢中になる刑事ドラマは、なんとなく生まれるものではありません。時代を意識し、問題提議しながら、エンターテインメントとして完成させる。スタッフや俳優陣のプロのチカラがあってこそ生まれる刑事ドラマは、日々進化を続けています。