お金に縛られないためにはお金が必要

宵越しの銭は持たない。江戸っ子のように粋がっていいのは、ある程度の蓄えがある人か、実はかなりの収入がある人だけ。落語の世界なら、お金がなくなれば、大家さんや長屋の隣人から醤油や味噌を借りることができたかもしれません。現代では、キャッシングに駆け込むことになるでしょう。
 

100万円貯蓄がひとつの目安

100万円貯蓄がひとつの目安


もらったお給料を全部使ってしまって、困った時には誰かに助けてもらう、お互いさまだからね、というセーフティーネットが、昔はありました。現代では、残念ながらそんな考えは通用しません。

しかし、お金が貯まらない、貯めても使ってしまうという声は、現代でも多く聞かれます。そういう人たちを見ていると、実はそれほど生活に困っているようには見えないのも不思議です。そのとき楽しければいい、欲しいものは我慢しない、なんとかなる的な楽観主義が、そう周りに思わせているのかもしれません。

そこまで楽観的ではないにしても、お金が貯まらないと言う人に共通なのは、「危機感の希薄さ」があると思います。今の会社を辞めることはない。結婚に魅力を感じないし、車を購入する予定もない。老後は不安だけど、田舎には親の家があるから、なんとかなる。大きな野望も抱かない代わりに、大きな損もこうむらない。そんな自分にとって都合のいい論理を描いているのではないでしょうか。

しかし、これがすべて反対になったら、どうなるのでしょう。

会社を辞めなくてはならない事態になった、どうしても結婚したい相手と出会った、子どもが生まれたからやっぱり車は必要、田舎の親は自宅を売却して老後は海外に移住してしまった……。

頼れるものが何ひとつなくなり、想定外の費用が必要になったとき、「お金を貯めておけばよかった……」となるのです。これは極端な例かもしれませんが、お金がないことで、選択の自由が奪われるということもあるのです。

キャリアアップのために転職しようとしても、蓄えがなければ、その間の生活費に困ってしまうかもしれません。だから今の会社にとどまることにし、キャリアアップよりも現状維持を選択。結婚することになったけれど、お金がないから地味婚。一生に一度の晴れ舞台なのに、パートナーにウエディングドレスを着させてやることもできない。子どもが生まれてもお金がないから、希望する進学をあきらめさせる。親の家をあてにするがために、実家に戻ったものの仕事のクチが見つからない……。いろいろなネガティブシチュエーションが考えられます。

お金の出入りが順調に回っているときは、あまり感じないのですが、一度でも何かを選択しようとしたときに、貯蓄がないばかりに、自由な選択ができなくなることがあるのです。お金に縛られないためには、お金が必要なのです。
 

なぜ100万円貯蓄がひとつの目安なのか?

なにも1年で100万円じゃなくてもいいのです。1年で100万円貯めようと思ったら、毎月8万3000円も貯蓄をしなくてはなりません。2年かかっても3年かかってもいいので、できる範囲で、無理のない範囲で貯蓄を始めて、まずは100万円を貯めたいものです。総務省統計局の家計調査(平成29年二人以上の世帯・勤労者世帯)によると、30歳未満の平均貯蓄額は397万円(30代で634万円)。30歳までに300万~400万円を目標にしてもいいかもしれません。

なぜ、まずは100万円なのでしょうか。

たとえば、自己都合で会社を辞めたとします。会社員は雇用保険の給付が受けられますから、当面、生活の心配はいらないと思うかもしれません。しかし、雇用保険の受給には条件があり、給付額は退職前のおおよそ50~80%にとどまります。

仮に退職前の6カ月間の賃金(ボーナスを除く)が150万円だった場合、28日間の給付額は約15万円(失業時の年齢が29歳未満、給付率65%の場合)。毎月25万円の給与で生活していたのに、いきなり10万円の節約をする生活に変えられるのでしょうか? また、自己都合の退職の場合は、申請から約3カ月間は給付を受けられません。最低でも3カ月間の生活費が必要なのです。貯蓄がなければ、自分の意思で会社を辞めることもできないわけです。

順風満帆な会社員生活を送っていても、いつ、何が起こるかわかりません。もしも病気やけがで入院したら、医療費の支払いにまとまったお金が必要になります。

生命保険文化センターの調査(平成28年度 生活保障に関する調査)によると、病気・ケガで入院・手術した場合の、平均自己負担額(3割負担)は22万1000円。高額療養費制度によって、一定額を超えた医療費は払い戻されますが、病院への支払いにまとまったお金が必要になることに変わりはありません。

何もネガティブなことだけではありません。将来を考えて、キャリアに必要な資格を取得しようとしたときに、貯蓄がなければ資格取得のスクールに通うこともできません。たとえば、ファイナンシャルプランナーの初級(AFP)を取得しようとスクールに通えば、約15万~20万円の費用がかかります。「士業」の資格なら、もっと高額な費用がかかります。厚生労働大臣が指定する講座であれば、教育訓練給付制度によって、費用の20%、最大10万円(一般教育訓練給付の場合)が戻ってきますが、それでも最初にある程度の資金が必要というわけです。
 

100万円の積み重ねが、1000万円へとつながる

いったん100万円貯めることができれば、貯蓄のスピードは上がってきます。なぜなら貯蓄に対する習慣やモチベーションが格段に変わるからです。100万円を元手に投資で一発当てる、ということではありません。100万円貯められたという成功体験によって、自分のお金に対する行動に変化が起きることが一番の要因です。

実は、100万円を目標に貯蓄を始めるだけでも変わります。最初は毎月1万円の給与天引き貯蓄でも、半年続ければ、無理な節約をせずとも、案外生活パターンが変わっていないことがわかるはずです。それは、無意識のうちに「無駄遣い」をやめているからです。すると、次の半年は毎月2万円にしようかな、という前向きな気持ちが芽生えてきます。

しかし、これを毎月5万円にしようとすると、家計を大幅に見直す必要がでてきます。保険料はもっと安くならないのか、スマホの契約はもっと安くできないのかなど、毎月固定で支払っていた金額に疑問を感じるようになります。こうした固定費の見直しは、一度行えば、継続して削減できるもので、その分貯蓄のスピードは加速度を増します。ただし、一気に家計の大幅な見直しをやろうとすると、精神的に無理が生じてしまうので、貯蓄グセがついてから、ひとつずつクリアしていけばいいのです。

こうした積み重ねで、100万円の貯蓄が達成できれば、さらに気づきがでてきます。もっと有利な金利の銀行はないのか、預貯金だけではなく、少し運用もしてみようか、と次々とお金に対する情報に敏感になってくるのです。買い物の仕方など、お金の使い方そのものも変わってくるでしょう。

いきなり1000万円はムリだとしても、まずは100万円貯めること。これが自分の自由な選択を可能にし、1000万円貯めるステップに進むことができるようになるのです。