年金を繰上げ受給すると1カ月につき0.5%減額

年金を早く受け取れる分、年金額は減額される

年金を早く受け取れる分、年金額は減額される

老齢基礎年金は原則65歳が受給開始年齢ですが、60歳から65歳になるまでの間、1カ月単位で繰上げ受給することができます。その場合、1か月繰り上げる毎に年金の0.5%が減額されます。

例えば、5年繰り上げて60歳から受給すると、一生涯年金から30%(=0.5%×12カ月×5年)がカットされ続けます。繰り上げ受給を申請すると取り消すことはできません。注意が必要です。
 

45%が繰り上げ受給を選択

「平成24年年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)」(厚生労働省)によると、老齢基礎年金のみを受給する男女のそれぞれ45%、厚生・共済年金ありの人では男性の6%、女性の13%が繰り上げ受給しています。理由のトップは「減額されても、早く受給するほうが得だと思った」でした。本当にお得なのでしょうか。 「平成26年財政検証」等を基に検討してみましょう。
 

損益分岐点は78歳11か月

国民年金と厚生年金の収支については、5年毎に検証が行われ公表されることになっており、平成26年6月3日に「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し―平成26年財政検証結果―」が公表されました。

その3週間後の6月27日に発表された「第22回社会保障審議会年金部会 平成26年財政検証関連資料」には「生年度別に見た年金受給額後の年金額の見通し」が掲載されています。

資料にある「経済成長率0.4%」のケース(表―1参照)を基に、1959年生まれの人が60歳から繰り上げ受給した場合の損益分岐点を計算すると、おおよそ78歳11か月になります。65歳時点の平均余命(男20年、女25年)を生きると繰り上げ受給は「損」ということになります。

<1959年生まれが繰り上げ受給した場合の損益分岐点>

  1. 60歳から繰り上げ受給すると、79歳11か月までに受給する老齢基礎年金合計は1024万円
  2. 65歳から受給開始すると、65~79歳11か月に受給する老齢基礎年金合計は1098万円
  3. 79歳11か月時点で、受給年金額は繰り上げ受給の方が73万円少ない
  4. 75~79歳の老齢基礎年金受給額は5.8万円/月。73万円はほぼ1年分の年金額
  5. 繰り上げ受給の損益分岐年齢はおおよそ78歳11か月
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年金は少なくなるのねえ。80歳まで働くか……。

 

将来の所得代替率は67~45%

前出の「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し―平成26年財政検証結果―」には、「所得代替率の将来見通し」が掲載されています。2014年度の所得代替率は62.7%。それが2050年度には、経済成長率0.9%では51.0%、経済成長率が0.4%では50.6%に下がると予測されています。

<2050年度の経済成長率別 所得代替率予測>(2014年度は62.7%)

  • 経済成長率  1.4%    所得代替率 50.9%
  • 経済成長率  1.1%    所得代替率 50.9%
  • 経済成長率  0.9%    所得代替率 51.0%
  • 経済成長率  0.6%    所得代替率 50.8%
  • 経済成長率  0.4%    所得代替率 50.6%
  • 経済成長率  0.1%    所得代替率 45.7%
  • 経済成長率 ▲0.2%    所得代替率 42.0%(2058年度)
  • 経済成長率 ▲0.4%    所得代替率 39.0%(2055年度)


所得代替率の予測表で大きな問題が明らかになりました。それは、老齢厚生年金(厚生年金)に比べ老齢基礎年金(国民年金)の代替率の下がり方が大きい(=老齢基礎年金の減少が大きい)ということです。

代替率予測で最も低いのは経済成長率が▲0.4%のケース。2014年の代替率36.8%が41年後には23.0%、約3分の2になってしまいます。経済成長率によってはこのように所得代替率が下がるので、繰り上げ受給の損益分岐点の年齢は遅くなる可能性があります。

<所得代替率とは>
年金受給開始時点(65歳)の年金額が、その時点の現役世代の手取り収入(ボーナス含む)に対してどの程度の割合かを示すもの。

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厚生年金より国民年金の方が減少カーブが急なんだね。

 

年金カット法でさらに年金減少

2016年の年金制度改革法で、次のことが決まりました。

  1. マクロ経済スライドの見直し=未調整分は、速やかに調整を実施する(2018年4月実施)
  2. 賃金下落率が物価下落率より大きい場合は、賃金下落率に合わせて年金額を改訂する(2021年4月実施)

2.は、物価が上昇し賃金が下落した場合は、賃金の下落率に応じて年金額を改訂するということです。年金額改定には常に下落率の大きいほうを採用するので、「年金カット法」と言われました。年金が減額 → 所得代替率が下がる → 繰り上げ受給の損益分岐年齢は上がる、という流れで進むので損益分岐の年齢はさらに遅くなることになります。

 

繰上げ受給で失くす権利は大きい!

繰り上げ受給を選択すると、年金の減額だけでなく次の権利を失います。

  • 障害基礎年金を受けることができない
  • 寡婦年金(※)の受給権を失う
  • 配偶者が死亡した時、65歳になるまでには遺族厚生(共済)年金と併給できない

(※)寡婦年金
国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間(免除期間を含む)が25年以上ある夫が死亡した時に、10年以上の婚姻関係があり生計を維持されていた妻に60歳から65歳まで支給される年金。ただし、夫が障害基礎年金や老齢基礎年金を受給していたときには支給されない。

これらの権利は、本人が障害状態になる、配偶者が死亡する、など家族環境が急変した時に受給するものです。ある意味その後の生活の支えになるものです。それが受給できないわけですからダメージは大きいですね。

年金制度はますます複雑になり、繰り上げ受給の損益分岐点の年齢予測は、雇用・経済・人口など様々な不確実要因の影響を受けるので難しくなりました。「損・得」の判断は簡単ではありません。繰り上げ受給は、損・得をベースにするのではなく、老後資金や健康状態などを基にしたキャッシュフローから判断するといいのでは? そうすれば損をしても後悔することは無いでしょう。